ボタン

 ボタンがあることを忘れたか?注意を払わない。ポロシャツを着たら、そのまま。
 ばあちゃんは昔人間なので、一番初めにできなくなったのは面ファスナー。これは姉がリュウマチで手が不自由になり、ボタンを面ファスナーにつけかえて着ていたのをもらったブラウスで、すぐにできなくなった。面ファスナーの不便なところは、凹凸両方の正方形をあわすことで、持ち方が上下左右にずれると、うまくあわない。
 次にできなくなったのがスナップ。これも左右の手に持ってするから、ゆがんではめてしまう。ボタンは少々ずれても、あとから勝手に動いておさまってくれる。
 ボタンも不自由になったのは、手の親指と人差し指の先どおしがあわない。親指の先と人差し指の第一関節があうぐらいの適当さになると、ボタンを留めるには不自由だ。ばあちゃんは「手先を使うとぼけへん」と言いながら、草引きと編み物をしていたが、どちらもしなくなると、手の筋肉が落ちたのがわかる。手だけ、骨と皮になっている。足はまだ動く。まだスタスタ逃げる気があるから丈夫で助かる。