「行商生活52年 福島県歯角女性市議会議長になった 小林チイさん(72)」朝日新聞 2月2日「ひと」欄 

 福島県南相馬市で昨年暮れ、県内の市議会で初の女性議長に選ばれた。農家の嫁として52年のキャリアを持つ野菜の行商人でもある。
 体調が悪くとも、臨月間際でも、重さ200キロを超える荷をリヤカーで引いて街へ出た。夫と育てた野菜を売り、一男一女を育て上げた。お客だけでなく、年下の男性議員たちも「チイちゃん」と慕う。
 ざっくばらんで頼りになる性格と行動力を変われ、58歳で市議に初当選した。「両立は難しいから、行商はやめる」と言ったら、「お客さんに『じゃぁ、もう票は入れない』って言われちゃって」。得意先は約100軒。「家族の分も数えたら結構な票なのよね。ハハハッ...」
 誰よりも市井の声を聞いてきた自負がある。「市役所を分煙にして」「歩道の段差がきつい」。その度に議会で取り上げ、改善につなげてきた。質問材料に困ったことはない。政治につきものの酒席も、「大好きなの。昔は5、6次会まで付き合った。今は2次会までですけどね」。
 議長は想定外だった。「だって、なりたいって人がたくさんいるんだもの。男は議員になると、みんな議長になりたいっていうの」
 戦後教育で男女同権を教えられた。でも家では父が威張り、子どもながらに疑問だった。行商をしながら、政治の話を向けた途端に口数が少なくなる女性たちに歯がゆい思いもしてきた。「女性が政治に関心を持たなければ世の中変わりません」