診療所に行く

 入所したらもう歩いて行く必要が無い。廊下伝いにつながっているから。すると今日が最後だから歩いて行こう。
 家の前の道路にシルバーカーを下ろして、ばあちゃんと門の外の階段を下りた。ばあちゃんに上のハンドルを指して「持って」と言うと、両手を少し開いて握ったので、私がその間に手を入れて交互になるように握った。歩いてみると、両手を揃えて握るよりも楽だ。難なくトンネルまで行く。
 トンネルを出て急な坂道は途中で止まって休む。ばあちゃんが休みたいわけではない。私が「はぁー!」と休む。
 国道に出たら、幸い車が途切れていたので、ガードレールが無い部分を急いで行く。坂道まではばあちゃんが右、私が左を歩いていたが、ここで交代。国道の左を歩くから私が保護者になり、右を歩く。後からダンプカーが徐行して追い越して行った。あせる。
 やっとガードレールのついた歩道に出たが、こちらは舗装のやり直しがないからでこぼこで、おまけに左に傾斜している。歩きにくい〜。我慢して信号までノンストップ、信号からまた施設の坂道を上がる。歩きにくい。ばあちゃんと位置を交代、私が左の方が歩きやすい。
 途中で3回止まる。ばあちゃんがいやになったらしい。何か言い出したのを無視していたら、いきなり両手をパッとはずした。ばあちゃんにも意志はあるわねぇ。また持たせて「あそこ、あそこ」とか言いながら、何とか入り口にたどり着いた。
 自動ドアを入る。「靴ぬいで」がわからない。家なら勝手にぬぐのにね。習慣になっているのだろうか?手振りで教えて、スリッパをはかせてソファに座る。受付してすぐに看護師さんが来た。新人だ。「血圧を測りましょう」と言われるので「歩いて来たから高いですよ」と言うのに「あの坂を歩いて?」と言って測る。「高いね」って、だから言ってるでしょう?普段は110前後よ。
 所長先生に「入所です」と言うと「入所されたらすぐに健康診断をして薬を調整します」と言われた。よかったね。診察がすんだのに、ばあちゃんはベッドを見て「ここに寝ます」と言ったので、おかしかった。それとも、家では暇があると寝かされているので、くせになったか?疲れたか?
 待合(室では無い。廊下のオープンスペース)のソファにもどり、会計と薬を待つ。