弁慶草の挿し木

 弁慶草は強い。昔はたくさん植えて、9月になると花市場に出荷していた。花のない時期なので生け花を教える先生方に重宝されていた。朝早くに畑で切って、トラックで積んで帰り、昼のうちにばあちゃんと私が箱に詰めておいて、夕方に会社から帰った夫と二人で、市場に運んだ。夏休の終わりになると「あ〜、また、9月だ。弁慶草の季節だ」と憂鬱になったが、貴重な現金収入なので、頑張っていた。私たちも若かったのね。
 そのうちにばあちゃんが切ると「えらい短いな」と思うようになり、ばあちゃんがおかしくなると、株や花の手入れもできなくて、長くて立派な物が育たず、「他に作る人がいないから、作ってよ」と言っていた市場の主も、花のみすぼらしさを見てか、言わなくなり、自家用の花のみとなった。それでも、学校に持って行ったり、近所に配るぐらいはあった。
 それが、畝を機械で耕しているうちに、いつのまにか、株が減ってしまった。中でも、赤い花の咲く株が見当たらない。なんとか見つけてこようと思っていると、ご近所にあった。うちの株がもらわれて行ったおうちだったのだ。早速、もらいに行った。
 強い草なので、枝をさせば根を下ろす。発泡スチロールの箱にさした。試しに引っ張ってみれば、浮き上がって来ない。簡単に抜けて来るのはまだ根が出ていない。根を下ろし、地面すれすれに新しい葉を出しているのがいる。キャベツのように巻いていて、かわいい。
 春になったら畑に持って行って植えよう。