在宅支える地域づくりへシフト 医療・介護推進法が成立 

福祉新聞WEB 2014年6月30日_1面表
                 資料 市民福祉情報・オフィス・ハスカップ・7月2日号より

 介護と医療の提供体制を段階的に改革する「医療・介護総合推進法」が18日の参議院本会議で自民、公明両党の賛成多数により可決、成立した。野党は全党が反対し、法案には22項目に及ぶ付帯決議がついた。介護、障害福祉分野で働く人の賃上げを目指す「介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する法」も20日に成立。3項目の付帯決議がついた。介護保険は給付を切り下げ、在宅生活を支える「地域づくり」にシフトする。

職員の処遇改善法も成立

 改正法の正式名称は「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」。医療法(施行は14年10月以降)、介護保険法(同15年4月以降)などを一括して改正する。
 医療法改正によって病床機能を再編し、入院期間を短縮する方針。介護保険は給付を切り下げて地域支援事業(市町村が実施主体)の守備範囲を広げる。病院や施設以外で暮らせる「地域づくり」を促すためだ。
 具体的には、年金収入が280万円以上ある人に限り、利用者負担を現行の1割から2割に上げる。施設入所者のうち預貯金が単身で1000万円以上ある人は補足給付(食費・居住費の補助)の対象から外す。特別養護老人ホームの新規入所は、原則として要介護3以上の人に限る。
 一方、地域支援事業は拡充する。要支援者を対象とする予防給付のうち、訪問介護通所介護を17年度末までに同事業に移す。在宅医療と介護の連携、認知症の初期集中支援も同事業に加える。
 厚生労働省は、地方自治体の裁量を広げることによって結果的に財政の効率化につなげたいとし、「財政抑制ありきではない」と重ねて強調している。
 しかし、地方自治体には不信感がある。
 16日の参院厚労委員会に公述人として出席した山田啓二全国知事会長(京都府知事)は改正法に異存はないとしつつも、障害者自立支援法後期高齢者医療制度を例に挙げ、「厚労省は安物の福祉を市町村、都道府県に押し付けてきた。私はあまり信頼していない」と苦言を呈した。
 野党からは、法案が多数の法律を束ねていることについて「国会軽視だ」とする批判が衆参両院で噴出。参院では配付資料にミスが発生して審議日程がずれる事態となり、厚労省は糾弾された。
 その結果、田村憲久・厚労大臣が給与1カ月分を自主返納するほか、村木厚子・厚労事務次官や担当局長ら幹部職員6人を訓告処分とすることが、18日に明らかになった。


西岡修・東京都高齢者福祉施設協議会長の話
 介護保険をますます分かりにくくする改正で、保険制度として妥当なのかという議論が不十分だ。要介護1、2の人の特別養護老人ホーム入所は原則不可で、市町村が「特殊事情」を認めた場合は可能という。「要介護」と認定された上で市町村が二重に関与することになり、要介護認定とは一体何なのか疑問が残る。
 予防給付の訪問介護通所介護を地域支援事業に移すことも同様だ。2005年の法改正後、予防効果があったのか検証が不十分であることも否めない。東京は独居・夫婦のみ世帯が急増し、介護施設や在宅での看取りも増えると見込まれるが、今の看取りは医師の善意で成り立っている。これが改正によってどう変わるのか分からない。
 介護保険のメニューは増えてきたが、介護報酬はいまだに大都市に厳しい構造であり、介護人材を確保する上で大きなネックになっている。地域包括ケアシステムは都市部にこそ必要だと言われるが、さまざまな矛盾が残されたままだ。

鏡諭(かがみさとし)・淑徳大教授(元埼玉県所沢市職員)の話
 消費税を上げた今、なぜこの改正なのか。大義が分からない。市民にとって負担増、給付減となる項目が多く、評価は得られないだろう。予防給付の訪問介護通所介護を市町村の地域支援事業に移すと、要支援と認定された人の受給権が削がれてしまう。給付と事業は大きく意味が異なる。ボランティアを活用するといっても、地域によって質の差が生じるだろう。
 一定以上の所得の人の自己負担を2割に引き上げることも保険原理から見ると筋が悪い。市町村の事務負担は重くなるだろう。特別養護老人ホームの入所を要介護3以上の人に限定することは、措置制度を引きずるもので、サービスを受けられない構造をつくる。市町村は今回の法改正でさまざまな事柄を押しつけられる。
 市民に安心して生活してもらえるように、費用抑制を目的としない、本当の意味での「我がまちの地域包括ケアシステム」をどう構築するか、地域の医師会、民生・児童委員など関係者と十分話し合う必要がある。