平核無柿(ひらたねなしがき)の焼酎渋抜きを作ったので、神戸有馬ロータリークラブの例会に持って行った。
 「説明をお願いします」と言われたので「お米の取入れと柿の話」をした。
 私の地区には「弘法大師の独鈷水(とっこすい)」と「弘法大師の半渋柿」の話がある。
 昔むかし、弘法大師様が回って来られて「おばあさん、お水を下さい」と言われた。
 おばあさんはお水をさしあげて「すんません。ここらには綺麗な水が出ません」と言った。
 弘法大師様はお水をごっくんと飲んで「水でお困りか?それでは井戸を掘ってさしあげよう」と言って、お経を唱え、えいっと言うと、泉が湧いた。
 今も弘法大師の独鈷水は枯れることなく、持ち主が日々、使い、流れ出ては下流にある多数の田んぼを養う。
 子どものころは「独鈷って何だろう?」と思っていたら、水前寺清子さんの「一本独鈷の歌」でわかった。
 次に弘法大師様は、別のおばあさんに柿を所望されたが、そのおばあさんは「ここの柿は渋柿です」と言って断った。次の年から、ここらには反渋柿しかできなくなった。
 これは、おそらく山間地で日当たりが悪いので、半渋になったと思われる。
 甘柿と渋柿の違いは?
 柿にはもともと渋み成分のタンニンがある。水溶性なので舌にのせると、唾液で溶けて渋い。
 秋に近づくと、甘味成分もできてくる。
 水溶性のタンニンがいつまでも水溶性のままだと、渋いままである。これが渋柿。
 タンニンが不溶性になると、舌にのせても唾液で溶けないので、甘さだけが感じられる。これが甘柿。柿のてっぺんの皮を爪で半月に削ると、甘い点が見える。「ごま」と言ったりする。
 では、渋い柿をどうやって甘くするか?
 大昔は熟柿(じゅくし)。そのまま放置すると熟して柔らかく甘くなる。
 次は干し柿を発明。
 次はお風呂の残り湯に一晩つけるのを発見。
 次はお酒の樽につけると、アルコールで渋が抜ける。樽合わせと言う。
 酒樽は1回限りなので、焼酎にまぶすことを思いつく。
 昔は味付け海苔の瓶などに入れて、蓋をガムテープでふさいだが、今はポリ袋を二重にして10個ずつ入れて「○日に焼酎で渋抜きをしました。1週間常温放置、それから開けて味見。甘ければ冷蔵庫保存。渋ければまた密閉」と書いた紙を貼って渡す。あわてんぼは「渋かった」と言う。
 産地では柿の木になっている実に。1つずつポリ袋をかけ、アルコール綿を入れて抜くやり方もある。手間がかかる。
 手間が減るのは、ドライアイスで抜く。ポリのごみ袋に入れて、二酸化炭素ガスでふくらんだら、放置。へこんだらできているそうだ。これの利点は、柔らかくならないので輸送と保存が楽だ。
 焼酎で抜くと、甘くなったらどんどん柔らかくなる。冷蔵庫保存する。焼酎の風味があって、甘柿の苦手な人にも喜ばれる。
 柿の種は埋めると生える。野生の柿は渋柿である。甘い柿の枝を接木する。昔の人は接ぎ木の技術を持っていた。
 野生の柿がたくさんたくさん実をつけると、実が小さいので「びんぼ柿」と言う。あまりに小さいと食べずに生け花にする人がいる。