セカンドハウス

 ばあちゃんは、たいてい「畑に行く」と言って出ていく。夕方、帰ると、えらく低姿勢で「えらい、すんまへん。ありがと」と言うことがある。「手を洗って」と水を出してあげるだけで、こう言う。どうも、おかしい。「ばあちゃん、どこ、行ってきたん?」と訊いてみる。「診療所か?『もう、帰り』と言われたんか?」と重ねて訊くと「うん」と言う。どうやら、畑から直行で行くらしい。
 「ここで、泊めてもろても、ええか?」と私に訊くことがある。夕方「ご飯、よんでもらえるんか?」と言うのには、驚く。なんで? 大変! ばあちゃんが炊飯ジャーを開けて、ご飯を食べたか、あとを平にならしたので、ジャーごと、隠したのだ。どこへ?って?風呂場だ。気がつくまい。それで、ご飯が見当たらないので、不安になったのだろう。
 「ここ、ばあちゃんの家やで」と言うと「違います」と言う。「あっちです」と畑の方を指差す。うちから見ると、南側で、高低差で言うと、向こうが上になる。とにかく、指差して言う。ありゃありゃ、向こうが(ステイ)が家かい? 困ったな。「ここやで」と言うと「違います。あっちです。お父ちゃんがおります」と言う。「名前は?」と訊くと「しげまつ」と言う。それは、数年前に死んだ、ばあちゃんの兄だ。母親の名前は言えるし、実家の姓も言えるが、夫や父親の名前は忘れたらしい。
 ステイも「家」か。いいけど...なじんでくれたのは、いいけど、なあ。