小作人

 昨日の午前中、家にいたら、去年までうちの畑で野菜を作っていたおじちゃんが来た。定年退職後にうちの近所に引っ越してきて、ばあちゃんに勧められるままに、野菜作りを始めた、いわばばあちゃんの弟子だ。うちの畑は無料の貸し農園なので、私は冗談で「小作人」と呼んだりしている。もちろん「年貢」はもらわない。お歳暮はありがたく頂く。
 おじちゃんは引越ししたので、ばあちゃんにはしばらく会っていないから会いに来てくれたのだ。ばあちゃんが応接間に来たので「ばあちゃん、お客さんよ」と言っておいて、私はお茶を入れに台所に行った。なのに、ばあちゃんが「お茶や」と言いに来た。気がきく、というか、命令は立派だ。持って行くと、おじちゃんが「ばあちゃん、元気や。今、『お茶』言うて、よう、わかっているやんか」
 ほら、ね!これだから、ばあちゃんのぼけっぷりがわかってもらえないし、日常生活が破綻しているなんて、夢にもおもわないでしょ。でも、ご飯を食べたのも、食べてないのも忘れるし、どの服を着るかもわからないし、草と花と野菜の苗も見分けがつかないんだよ。
 三人でお菓子を食べていたら、ばあちゃんが一番に終わり、また手を伸ばした。私がさっさと片づけると、おじちゃんが自分の分をばあちゃんに渡した。ばあちゃんは「こんなん、もろたら、先生の分がないから、一枚返します」と言って返した。「先生」って、デイと間違えているね。男の人は、先生なんだね。