「勘定して」

 寝そびれたばあちゃんがやってきた。
「あれな、どないなっとんのん?」と言う。「何が?」と訊くと、ごにょごにょ、どう言えばいいか、わからないらしい。が、どうやら「お勘定」のことらしい。お泊りに行くと、その分のお金を計算してもらって、払わねば、と思うのだろう。「大丈夫、ちゃんとやったから」と言うと、部屋に行った。
 ステイに行って、寝付けないときは、こう言って事務所に行くのだろうね。
 だからと言って、先生、「薬で眠らそう」などと考えないでください。こりているのです。
 大病院で狭心症の検査をしたとき、ばあちゃんは寝ないで暴れたのだ。看護婦さん(当時の呼び名は看護婦)から電話があって「ばあちゃんが寝ないので、来てください」と言われた。真夜中だった。ばあちゃんは、足から血管にカテーテルを入れて、血管造影の検査を受けたのだ。カテーテルを入れたあとのきず口が開かないように、6時間は安静にする必要がある。ばあちゃんは夜中に、導尿管をはずして、パジャマに着がえて、ナ−スステーションに行った。そこで「御用!」となり、ばあちゃんはベッドごとナースステーションに入れられていた。ベッドの、中には、紐が無造作に入れられていたのを、私はちゃんと見たよ。(今なら「拘束はしません」と言うのだろうが)
 ばあちゃんは、私が行っても寝なかった。鎮静剤を飲ませても、注射をしても、ちっとも寝なかった。薬はきかないのだ。だから、先生、薬で眠らそうなんて、やめてください。