トンネルの上

 畑を貸してあげていた人が、急に体調をくずしたのか、「もうやめる」と言う。玉葱も収穫し、今は何も植えられてはいない。
 とりあえず、ばあちゃんにそこの畝の草を引いてもらった。長く伸びていた。
 まぁ、草に夢中だから、放っておいても大丈夫。夕方の準備をするために私は家に帰った。
 6時過ぎ、ばあちゃんを迎えに行く。
 ばあちゃんは、トンネルの上にいた。高速道路の下をくぐって畑に向かうトンネルだ。トンネルの上の狭いのり面にのって、草を引いている。もうずっと前に、いとこが私に「おばちゃん、えらいところにおるなぁ。落ちたら危ないで」と言ったものだ。私は「声をかけたら、あかんで。びっくりして落ちたら困るやろ。放っておいたら、自分で下りてくるから」と言う。
 今年は雨不足で、そののり面には、草がすくなかったのだ。だから、ばあちゃんはもう行かないだろうと思って、油断していた。ばあちゃんは今日のように、「一人で放っておかれた」「もう、疲れたから、帰りたい」というときは、歩いて帰りかける。が、途中でふと「まだ明るいから、帰るには早い」とか「怒られる」と思い出すと、その時に目の前にある草を引く。運悪く、トンネルだったのだ。
 家に帰って「トンネルの上に行ってはいけない」のメモを書く。読ませてから「なんで、あかんの?」と訊いてみると、「危ないからでしょ」と言うのだが、その言い方が、いかにも「他人事」に聞こえて、腹がたつ。