スイッチ

 ばあちゃんは昼ご飯に帰らない。迎えに行った。毎日、呼ばねば帰らない状態になって、何ヶ月たつだろう?
 食卓でメモを書いた。「なんで、朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯を忘れるの?」ばあちゃんは「それはいけません」と言う。そんな他人事のように言われても、答えにならない。「なんで帰って来ないの?」と訊くと、真面目な顔になって「気ぃよう言うてくれたら、帰ります」と言う。これはまた、えらいことを言う。「一人で帰って来たら、気ぃよう言うてあげます」と言うと...話は止まる。ご飯を忘れられたら、腹が立つんだよ。
 ところが今日は、食べ終わったのに箸を置かない。おかずのお皿もお茶碗も空になったのに、じっと箸を持っている。「どうしたの?」と訊くと「ご飯食べます」と言う。しまった。変にスイッチが入ってしまった。口に入れば忘れる人だったのに、目の前のお茶碗のご飯がなくなっても「食べる」とは、おかわりか?「食べてない!」と言うんだろうなぁ、また。