「入られへん!」

 畑で仕事をしていたら、3時になった。早く帰らなきゃ、ばあちゃんがデイから帰る。家に着いたら、ばあちゃんが怒っている。「入られへんがな!」私が「鍵を開けて入ったら、ええやんか」と言うと「鍵、持って行ってへん」と言う。ばあちゃんは、家の鍵の開け方を忘れてしまった。
 家に入っても怒っている。「もう、畑、行かへんで」と言う。もちろん、家にいたらええのよ。
 ところが、玄関をガラガラッと開けて出て行った。まぁ、いつものことだ。畑に行ってみると、ばあちゃんがいない。下の段の植木の下にでも、もぐっているのかしら?まあ、いいや、玉葱の苗を植えよう。
 しばらくして、ななくさの先生二人に送ってもらって畑に来た。「ばあちゃん、行ってましたか?」と訊くと「診療所に来て、いろいろ言ってました」と言われた。「何を言ってましたか?」と訊くと「それが、何を言っているのか、よくわかりません」と言われるのだ。たまに、言いたいことが言葉にならず、もにょもにょになるが、たいていは、はっきりと私のことを訴えている。「家におったら、怒られる」と言っているのだろう。ちゃんと聞いてやってください。
 先生が帰られて、ばあちゃんは草を引き始めた。4時を過ぎたころ、小雨が降りだした。「ばあちゃん、小屋に傘があるから、家に帰り」と言うと、ばあちゃんは小屋の方に歩き出したが、うちの小屋を通り過ぎて、となりのおじさんの小屋に行く。うちの小屋は去年建てたスチールの物置型で、となりは木製だ。おじいさんの代から、うちの小屋は木製だったから、間違えたんだろうね。
 ばあちゃんはおじさんの傘をさして、私の方ヘ歩いて来る。草を引いていると思って安心していたら、振り返ると、ばあちゃんがいない!またか!診療所に行ったに違いない。行ってみると「迎えに来てるよ!」と声がする。所長がなだめて、まだ怒るばあちゃんを、女性スタッフが「ほらほら、迎えに来たよ。優しいやん」と言っておられる。ばあちゃんはもっと怒って「帰ったら怒られても知らんで」と言う。「ここに来たから、怒られるんよ。帰ったら怒られへんよ」となだめてくれた。でも、怒りっぱなし。ばあちゃんは優しくすると、つけあがる。男の人は怒らないから、怖くないらしい。しかたなく、静か〜に連れて帰った。