「声せえへん」

 「今日はどこにも行きません」のメモを持たせた。でも、ばあちゃんがまる一日じっと家にいられるはずがない。何度も「畑、行きます」と言い「ばあちゃん、畑に止まらずに診療所に行くでしょ。怒るでしょ。迎えに行かないと帰らへん。やめて」と言われ「そんなら、行かへんわい」
 3時までは、なんだかんだ引き留めたが、その時にちょうど来た客と話しているのを利用して「わし、ちょっと畑に行ってきます」と言って出た。えらく急いでいる。足元が「つっかけ」だもの。「長靴、履きなさい」と送り出して、あとを追う。犬を連れに行く間に、ばあちゃんはトンネルまで行っていた。私が見えたのだろう。ばあちゃんは後をふりかえりながら行く。
 畑の入り口で追いついた。私に「あんた、どこ、行くの?」と訊く。「ばあちゃんを見張りに来たよ。畑はじゅくじゅくだから、土を踏んだら荒れる。踏まないでね」と言うと「そんなら、何、するのん?」と言う。あはは、「畑を踏むな」と言われると「草引きはできない」ぐらいはわかったらしい。「そんなら帰るわ!」と言う。「あ、帰るの?それがいいわ」と別れて、ゴミを捨てに行ってからもどると、ばあちゃんはいなくなっていた。上の畑に上がっても、ばあちゃんはいない。診療所に行ってみたが、外にはいない。お掃除のおじちゃんが「来てないよ。声、せえへんもん」と言われた。あ、ばあちゃんが来ると、大声で怒るから、皆、わかるんや!