「私そこまで行って、みなが帰ってくるの、迎えに行ってきます」

 昼ご飯の時に「今日は畑に行かない。地面がぬれているので、踏んだら荒れる」とメモを書く。ばあちゃんは「ちめん」と読む。「じめん」と教えてもだめ。午後は小雨で、ばあちゃんは家にいた。一度は外に出てみたが、まだ降っているので、戻ってきた。次に出たら止みかけで、ばあちゃんは行く気だ。戸のかんぬきをかけたので、連れに行って「帰るよ」と言うと、ついて来た。
 それからは台所の探索だ。ガタガタ、ゴトゴト...のぞくと、お茶の缶を開けたり、ポケットには即席みそ汁。
 ばあちゃんが突然やってきた。しんぼうしきれなくなったらしい。3時半だ。
「私、そこまで行って、みなが帰ってくるの、迎えに行ってきます」か。名せりふだ。
 え?と思うと、ついで「こらえておくなはれ」と言う。一人でいるのが、心細いのだろう。「誰か、いるはずだ」と思っている。「家」ではなく、「ななくさ」になっているから。部屋に連れて行って、ばあちゃんが早々と閉めた雨戸をもう一度開けてみたり、「皆、って誰?名前、言ってごらん」と言っても、なさけない顔になるばかり。「ここは、ばあちゃんの家。いるのはお父ちゃんとお母ちゃん。この人の名前は?」と言って、私を指さすと顔をまともに見ないし、名前はさっぱりわからない。
 もう、あかんわ。思い込んでいる。説得できるわけがない。あきらめて、こたつに置いてほっていたら、また来て「教えておくなはれ。どない、さしてもろたら、よろしい?あそこへ、迎えに行ったほうがよろしいか。みな、帰ってきなはるんやろ?ななくさへ、いてきまほか?どないだす?ほな、向こうの部屋、行って待ってますわ。どないさしてもろたら、よろし?あんたら、よう知っとってやから、教えておくなはれ。こんなこまっとるもん、おまへんで。死ぬよりしょうおまへんな。」ほえ〜?