これだけ怒ると笑うしかない

 「ななくさに行きます」と言い置いて、ばあちゃんは出て行った。長靴がない。追いかけると、畑にはばあちゃんがいない。診療所のも行っていない。事務所に電話をかける。行っていない。「探します」と言ってくださった。
 家の裏にいるのかも知れない。犬を連れて帰ってみた。電話がかかってきた。「ばあちゃんが着たので、家に送って行ったそうです。家の鍵がかかっているので、またこちらに連れて来ました」すれ違いだ。ななくさに行く道も、自動車道路と、うちの畑の道があるし、ばあちゃんは竹薮からも行くし、国道から下は、国道東コースと西コースがある。私は徒歩でトンネルコースだ。すれ違う所はたくさんある。
 私がやっとななくさに着いたら、ばあちゃんは送ってもらった車にまだ乗っている。横にスタッフ1人。「おりて、歩いて帰ろう」と言っても、おりてこない。外に男性スタッフ2人、女性2人。なだめても、叱っても、ばあちゃんは怒るばかり。
「頼んでくれたか?」と言いたいらしい。「仕事に来たいから、頼んでくれ」と言っているらしい。「頼んであげたよ。あした、迎えに来てあげる。今から家に帰って、晩ご飯にしよう」と言っても「わかるか!」と怒る。説得しようにも、怒りすぎて耳に入れない。なのに、ああ言えば、こう言う。
「ばあちゃんは、このごろ、一人でいられないんです。夜に目が覚めると『誰もおらへん』と言うし...今日は、台所をあさるので、冷蔵庫にジャムしか入れてない。『これは大変。ご飯、よんでくれてやろか?』とばあちゃんは不安になったのでしょう。それで『迎えに行く』ことを思いついたかな」と説明して「畑にいても、5分、草を引いたら、もう、診療所の電気を目がけて行ってしまうんです。仕事になりません。来月から限度額いっぱいステイさせてください」と頼んできた。
 ばあちゃんはまだ怒る。しまいに、皆で笑うしかない。こら、あかんわ。「車で送ります」と言ってもらった。「家に着いたよ」と言ってもおりない。家だと思ってないもの。「明日、迎えに来るから、今日はおりて」と約束してもらい「ご飯たべよう」と言っておろす。怒りながら、家に入った。