老人くらぶの役員さんでも「なま認知症老人」は知らない?

 夫が言う話を再現すると...
 ばあちゃんは食べながら「今日、何日や?」と訊く。夫が「28日」と言うと、ばあちゃんは「次、6日に行くねん。えらい、遠いな」と言う。婦人部長が「よう、わかっとってや」と言う。
ばあちゃんはまた「今日、何日や?」と訊く。「28日」と答えると「6日に行くねん」と言う。このあたりで、会長以下3人、目が丸くなる。夫は3人に「もうすぐ、また同じことを訊きます」と言う。「今日、何日や?」夫が「ほら、ね。皆さんが10分間ここにいれば、5〜6回は同じことを言います。今、ばあちゃんの頭の中には『6日に行く』しか無いんです」と説明して...「28日」と言うと「6日に行くねん」次にばあちゃんが「今日、何日や?」と訊いた時は、婦人部長が「28日や」と答えてくれた。「6日に行くねん」5〜6回どころではないよ。1分たたずに同じことを言う。
 夫が「繰り返していると、ばあちゃんは怒ってきますから、もうこのへんでお帰りください。本当は皆さんともっとお話もしたいと思いますが、怒ると困るので、申し訳ありませんが...」と言うと、役員さんは「それでは、いただき立ちで...」と言い、揃って立ち上がった。ばあちゃんは「あんたら!どこ、行くねん!」と言うなり、手でテーブルをバン!とたたいた!
 びっくりしただろうね。「認知症がどんなもんか、見ないとわからない」と夫が言う。ばあちゃんのような「元気で動き回る認知症老人」は珍しいかも知れない。この3人の家はうちからは遠く、ばあちゃんの行動半径ではないし、向こうからも来ることがない。見たことがないからわからない。しょっちゅう見ていたはずの姪だって、最近までわかっていなかったぐらいだから。
 3人のうちの2人は田んぼが近いが、ばあちゃんはもう長らく田んぼには行っていない。ただ「あのしっかり者のばあちゃんが、ぼけたらこうなるか?」と思ったかも知れない。「しっかり者」というとらえ方が曲者で、じつは「自分本位の頑固者」だったりする。
 それにしても、夫から「3人揃って立ち上がったら、ばあちゃんがテーブルをドンとたたいた」と聞いたとき、私は「あ、デイサービスや」と思った。「私をほっといて、あんたら、どこへ行くねん?」という意味だ。デイに行くとこうして怒る、というのがかいま見えた。