墓参り

昼から「ばあちゃん、墓参りに行くよ」というと「は、おたの申します」と言う。私が玄関の鍵をかけて犬を連れて来る間は、玄関の階段で待っていた。犬と一緒に歩く。
 墓は国道を見下ろす小高い丘の上にある。私が先に墓に着いた。犬を柱につないでうちの墓に行くのに、ばあちゃんはついて来ない。犬の散歩紐を握って「あっち、行きますのんか?」と山の方を指さしている。「いいえ、こっち。ここがうちの墓。掃除してちょうだい」と言うと、ばあちゃんは「はい」と言いながら墓石の周りの草を引き、落ちている葉を拾う。「ここも拾いますのんか?」と言いながら隣りとの境目のコンクリートの溝に落ちた葉を拾う。「頼むわ。綺麗になったな」と言うと、聞こえたか、聞こえぬか、ご機嫌だ。墓の周りを一周した。こんなおとなしく機嫌がよければ最高だ...
 そうは、いくもんか。「もういいわ。仏さん、拝んで」と言うと「ここ、まだや」と言う。「そこはもう引いたからよい」と言っても「草、生えてます」と言って、小さな小さな草にこだわる。一度とて、素直に「はい、そうですね」と言った試しがない。必ず逆らう。
 というわけで、やはり無理矢理止めて「拝む!」と言うと、パンパンと拍手を打つ。神様じゃないんだよ。「南無阿弥陀仏と言い」と言うと手を合わせた。
 帰り道、坂道の途中で電話がかかり、話しているうちに、ばあちゃんは先に家に帰っていた。しっかりしてますなぁ。