「私は三年間老人だった 明日の自分のためにできること」

 パット・ムーア著 木村治美訳 朝日出版社 2005年
 パット・ムーアさんは、ニューヨーク州生まれで、ロチェスター工科大学を卒業後、工業デザイナーとして働いていた。1980年の秋、26歳のパットは80歳の老人に変装してニューヨークの町に行く。また働きながら、コロンビア大学大学院で、老年学・生物学・カウンセリングを学ぶ。以後3年にわたり、老人としての体験を重ねながら、老人に使いやすい道具をデザインすることは、他の全ての人にも使いやすいのだという信念を持つ。これがユニバーサルデザインであり、去年の秋に私達が「つどい場さくらちゃん北海道車椅子の旅」で訪れた弟子屈の「ホテル風曜日」につながる。
 パットが老人に変装しようと思ったのは「歩く、という単純な行為でも、26歳の私が歩くのと、80歳の私が歩くのではどんなに違うのだろう」と考えたのがきっかけだと言う。パットは友人のパーティでテレビ局で働くメイクアップ・アーティストのバーバラ・ケリーさんと出会う。そしてバーバラの助けを借りて変装するのだが、彼女の周りのいつも会う人でさえ見破れない。
 私は、老人に変装したいとは思わない。パットが偉いと思う。
 そのくせ「老人に使いやすいものは万人に使いやすい」と言われると、ほんとだ、瓶のキャップも缶ジュースのリップも開けにくいし、説明書なんか「読むな!」と言っているぐらい、字が小さくて老眼鏡をかけても見えにくい。パットの言うとおり!と思う。
 この本は、25年も前の体験記であり、日本語訳も16年前に出たそうだ。その時はそこそこ評判になり、テレビ局がドラマ化したが、ありもしない若い男女のメロドラマが中心になり、パットが変装して命がけで老人である体験をしたことはほんの添え物になっていたという...日本の老人問題の理解度はそんな程度だった。
 今は高齢社会が現実のものになってきている。この本は字も大きくて読みやすい。パットの写真もよくわかる。