友達が来る

 今日は友達が来て、ばあちゃんも連れて昼ご飯を食べにでかけることになっている。ばあちゃんがもこもこエプロンを着こんで汗をかいているのを、脱がせたついでに外出着を着せた。
 友達が来たのは12時ごろだ。一人はフラメンコの帰りに、つどい場さくらちゃんに私を送ってくれて、一緒に晩ご飯を食べ、まるちゃんに「ひと目ぼれ」したつねあき君だ。「あんな人は他にはない」と言う。どこが?と訊くと「とにかく、ものごとにこだわらない」と言う。何かを思いついてするときに、誰かに遠慮するとか、先回りして心配事を作り出す、というようなことがない、という意味だそうだ。まるちゃんは「失くすものは何もないので、何もこわくない」と言っていたものね。つねあき君は、つどい場さくらちゃんのために「ひとはだ脱ぐ」気になったらしい。たとえば、北海道の旅についてきてくれたら、男の人を温泉に入れてあげることができる。女性の介護者は男湯に入れないもの、ね。次に、つねあき君は家を解体するのが仕事なので「捨てるにはしのびない、まだ使えるし、かなり上等な品物である」家具を残しておいて、新しく宅老所を開く人にまわしてあげることができる。もったいない、保管する場所と、需要と供給を仲介する人がいれば、まだまだ使える家具を役立てたいと思っている。
 もう一人は東京の子で、例年は彼女を囲んでミニ同窓会をするのだが、今年は日があわないのと、私が忙しくて設定できなかった。しかたなく、つねあき君と二人でうちに来てくれた。
 「ばあちゃん、出かけるよ」と言うと、どことなくハイテンションだった。ばあちゃんは「そろそろ迎えに来るころだ」と思い始めたらしかった。「なんどいな?」と言って玄関に来ると、人がいる。「この車に乗って」と言われると、すっかりデイ気分になってしまった。走る車から窓の外を見ながら「ほ〜ぉ、ぎょうさん、くるま、おるでぇ」と言う。車にしか興味が無いらしい。近視なら、遠くも近くも見えなくて、車しか判別できない?
 うどんやさんに入った。ここなら個室があるので他の人の邪魔にならない。ばあちゃんはテーブルの上の小さな箱型の陶器の器を何度開けただろう?爪楊枝入れだった。忘れてしまうから「何が入っている?」と思いながら何度も開けるらしい。ランチをとって、ざる蕎麦を半分に減らしてばあちゃんに渡した。「ほ〜ぉ、けっこうでんなぁ」と言いながらせっせと食べた。「デイに行くと、こうやって食べているんやろね。やかましい」と言いながら見ていた。「話しながら楽しんで食べる」のならそれもよかろう。もちろん、家では無言である。しゃべると気が散る。
 お茶碗も蕎麦の器も持たないで、下に置いたままつまんでいる。持たせると、ご飯を持ったまま、蕎麦をとりにいく。「これを先に食べなさい」と言って、見ていると、やっと蕎麦を食べ終わった。あとは「けっこ、でんな」と言いながらおかずを食べ、ご飯を食べる。えびカツは手でちぎっている。沢庵もちぎっていたので、一切れ食べたところで、皿ごと取り上げた。あとは一人前、食べ終わった。
「ちょっと、おしっこ」と言う。「あ、そう」とついて行こうとすると「あんた、座っとって。わたし、知っとるから」と言う。無視して一緒に通路に出ると「どっちや?」と言う。「右に行って」と言うと、先にお土産用のお菓子の袋が陳列している。子どもの手の届くようにずいぶん低い位置にある。「ほ〜ぉ、これはこれは」と食べ物には気がつく。「ばあちゃん、しずかにして。小さい声でしゃべって」と言わねばうるさくてしかたない。デイでもこうなんだろうね。「おしっこ」は口実だったらしく、きょろきょろ、他の部屋をのぞいたりして行く先が決まらない。「おしっこでしょ」と言うと、大きな声で「え
ーっ」と言う。
 トイレから出ると、また部屋に戻る。自分の席の前のお膳を見て「下げてのんか?」と言う。私が「ようけ、食べたなぁ」と言うと、とがめる言い方ではないのに「食べてへん」と言う。あら、忘れちゃった。「これを下げて、私が食べる物を出して」と言いたかったらしい。「ばあちゃん、食べたやん。これもこれも食べたやん」と言うと、怒り出しそうになった。あわてて外に連れ出した。また、土産物のお菓子の前ではまた同じ反応。外の商品見本のごちそうを見ると「わし、食べてへんで。何も食べてへん」と言う。あれあれ。車に乗せる。
 家に帰る。「わたし、あっちにおったらよろしいか?」と言いながら、しばらく自分の部屋にいた。そのうち応接間に来て、腰掛けると何かと話しに割り込んでくる。小さな饅頭を持たせてみたら、やっぱりお客さんの気分。
  そのうち「畑に行ってくるわ」と言い出した。「ここにおったら、何、言うや、わからへん」と私のほうをちらちら見ながら、友達に訴えている。友達が「自分の味方」で、私が「敵」らしい。友達は私に「行ってもええの?」と訊くが、止めても止まらない。行ったらええがな。友達はまた「このままでええの?」と服装を訊くが、よそ行きと言っても、汚れたら洗ったらええがな。行けば〜。とほっておくと、出て行った。ところが、しばらくすると、帰ってきた。くつがぬれている。ほんの小雨なのに、帰ってきた。