朝、洗濯物を干しに出ると、従姉妹が来て老人クラブの回覧板をくれた。「日帰り旅行のお知らせ」だった。私は町内会の班長なので、従姉妹に配布物を渡した。市のミニコミ誌「宮っ子」だ。そこへ従姉妹の息子が来て「猪がかかった」と言う。「山の猪の通り道にかけた、足くくりの罠にかかった」のだ。「罠かけのおじさんの車が無いやん」と言うと「運ぶのに、助っ人を呼びに行ったんや」と言う。「とりあえず、見てくるわ」と言うと、息子は山の方に行った。
 朝ご飯のがすんだので、畑に行こうと外に出たら、猪の前と後にロープをかけてひきずって来る人たちが見えた。ばあちゃんと一緒に見ることにした。おじさんが4人と犬が1匹。犬は、白くて鉄砲撃ちさんがよく連れている紀州犬らしい。ワンワン鳴いている。
 うちの家の隣の田んぼまで持ってきて、水道(山から引いた農業用水)の水を出して猪を洗う。殺したらまず冷やすのだと聞いている。水槽に水を出しっぱなしにして3日ほど冷やす、と聞いている。体についたダニも落とさねばならない。綺麗な猪だ。かなり大きい。犬はワンワン言いながら、猪の足を噛む。おじさんは「自分の猪や〜、と言うてるねん」と言う。そうなんか〜。どうりで、噛んでも猪には傷がつかない。「犬は気が荒いから、手を出すと、人間に盗られると思って、人間の方を噛むで」と言う。おお、こわ〜。
 そこへ従姉妹がやってきた。「ありがとうございます。おかげで助かりました」と言う。ばあちゃんに「猪やで。この猪が、姉ちゃんの芋を食べに来ててんで」と教えると「ほう〜」と言っていたが、「かわいそうやなぁ」と言う。ばあちゃん、猪をかわいそうがってどうする?「何がかわいそうなん?芋を食われた姉ちゃんのほうがかわいそうやん」とたしなめる。もちろん、ばあちゃんに理屈はわからないが、喜んでいる姉ちゃんと、取ってくれた猟友会のおじさんたちに感謝の気持ちを表すためである。おべんちゃんらかな?そうではない。やっぱり、退治してもらって助かるよね。
「綺麗な猪やねえ」と言うと「そうやな。まだ、若いな。2歳ぐらいかな。オスやな」と言われる。毛並みが綺麗で、傷が無い。長年、山を走り回って、えさを探していると、毛はずたずたになるからね。そこへ近所のおじさんが車を持ってきて、「ヨッコラショ」と猪を積み込んだ。今の猪でも食べられるのかしら?ぼたん鍋は冬のお料理だけど、ね。従姉妹が「100キロぐらいありますか?」と訊く。「ないない」「うちの柴犬は9キロや」と言うと「ま、この猪なら50キロかな」というところだった。