雨降り

 朝はまだ降っていなかったので、ばあちゃんを連れて裏の畑にいる従姉妹に会いに行った。急な坂道なので「そない、はよう歩けまへん」と言う。ときどき立ち止まって待っていると、追いついてきた。上の畑は薩摩芋だが、毎晩猪が来て、荒らされたので、網を張り巡らせてある。従姉妹とちょっと話したら、もう雨が降ってきた。「洗濯物を入れるから帰るよ」と言って先に走って帰った。ばあちゃんは「そない、はよ、行けまへん」と言うがほって帰った。ところが、ばあちゃん、帰らない。洗濯物を持って下のガレージに下りると、ばあちゃんがいた。倉庫の屋根の下にいて動かない。ここまで帰ったのなら家に入ればいいやん。「帰り」と言うと「わかりません」と言う。「この階段や」と言うと「ぬれますがな」と言う。ぬれてもたいしたことない。いつまでも待っていてもしかたがない。連れて帰った。
 従姉妹が来た。私が着物のことで頼みごとをしたのだ。玄関に座って話していると、ばあちゃんが来た。おやつの揚げせんべいを渡すと「もったいない」と言いながら、ちびちび食べる。手で割るから、かえって粉が落ちる。入れ歯でも前歯でしっかり割れるし、大きなかけらでも噛めるので「このまま食べ」と言うのだが、目を離すとちびちびやっている。いじましい、って言うの。びんぼにん(貧乏人)丸出し。ま、しゃあないけど。従姉妹があきれていた。入れ歯なのに、案外、やれる。なのにちびちび食べる。姑の亡霊に叱られる(嫁には食わさない)か、幼い日の兄弟おやつ争いか?
 従姉妹が「こないなるか?」と言う。面と向かって、本人の前で「こないなるか?」と言われても、ねえ。「ここまでぼけるか?」と言いたいんでしょ。この言い方、家族は意外と傷つくんだよね。電話で親戚に「もう、そないなっとての?」と言われるのが、一番腹がたつ。知り合いに面と向かって言われると、その次にこたえる。「そうやで。なってわるいか?誰でもなるわ!」と思う。これを書くと「すももはいつも怒りに満ちている」と言われるが、私が怒らないで、誰が怒る?
 ま、そんなこんなで、大きなせんべいを1枚食べたので、ほっておいたら、布団にもぐって寝てしまった。