「お口にあうもん...」

 ばあちゃんが起きてきた。いきなり、お客さんの後ろの戸を開けて入ってきた。なんで?って、ばあちゃんの部屋と応接間が戸を開けるとつながっているのだ。こんなときは「不意打ちで不便」だが、戸の隙間からばあちゃんが寝ているか起きているか、確認できて便利なときもあるのでしかたない。
「お客さんよ。ばあちゃんに会いたいんだって」と言うと「おぅ〜そら〜そら〜」と喜んだ。「まぁ、ここにすわって」と言って、向かいの席に連れて行く...ばあちゃんが何と言ったか?忘れた...次に「なんぞ、お口にあうもん、持ってきて」と私に言ったのだ。!なんと!ばあちゃん、しっかり「主婦」に戻り「もてなす」気満々だ。すごい台詞ね!びっくりした。「書かねば..」と思い、覚えたよ。でないと、忘れてしまう。私もえらく素直に「はいはい、お茶、入れてくるから、話しとってね」と言って、台所に行く。
 お茶とお菓子を持って戻ると、ばあちゃんは「ほぅ〜こんなん、よばれますのんか?」と言う。「『どうぞ』言うて勧めてあげて」と私が言う。ばあちゃんはお客さまに「ここに来さしてもろて、喜んでます」と言う。あらあら、デイと間違っているわ。それで「こんなん、よばれますのん?」と言ったのだ。おかしいな、その前は「何かお口にあうもん、持ってきて」と言ったときは、確かに自分が主(あるじ)だったのにな...いつの間に逆転した?ま、深く追求しないでおこう。
 お菓子を食べる。長男が持ち帰った博多の「きゃらまん」キャラメル味のあま〜いお饅頭だ。「おいしいです」と喜ぶ。次に赤穂の塩味饅頭も食べる。食べる。大東さんはどんどん写真をとる。写真は苦手なんだ。人相が悪いのよ、私。でも、お二人にすっかりうちとけたばあちゃんはご機嫌だ。笑顔がとれたと思う。
「ばあちゃんが編んだ服、見てもらい」と言うと「シャツか?」と言いながら、せっせとたたんでいて、そこを写してもらった。記念になるわぁ。遺影にしようかしら?でも、77歳の喜寿のときの沖縄旅行の写真にする気なんだけどなあ。