車椅子体験学習

中学の勤務。
1校時は学年「道徳」。2年生は体育館でやっている。体育館は運動場と同じ高さで、校舎は1段高い地面にある。体育館入り口から地面までのスロープを上がったところにウォ−タークーラーがあって、その横で我がクラスの健ちゃんが休憩中。
 そこへ「車椅子」に乗った生徒と押す生徒と後ろに従う一つの班が現れた。「車椅子体験」だったのだ。
 体育館からスロープを上がり、ウォータークラーのところに来て、左に曲り、テニスコートの上に出る。運動場におりる高い石段を、4人がかりで持っておりようというのだ。これは素人には難しすぎる。
 第一、初めのスロープでもう既に、押す生徒のテンションがあがっている。初めに「よいしょ」と力を入れて押し出すと、あとは惰性で進むから、ぐんぐん走ってくる。乗っている子は「キャー」とか言いながら、怖さよりも「快感」を味わっている。これを認めてはだめ。体験にならない。生徒の感想文でよくある「車椅子は楽しい乗り物だと思っていました。実際に乗ってみると怖かったです」までいかないかも知れない。
 なんで、私の出番?私は「特別支援学級」の支援員。でも、このときは「学校協力員」という名札をつけていたのだ。「これが目に入らぬか!」水戸黄門の印籠だ。「怪しいおばちゃん」じゃないぞ。先生方は要所・要所に立っておられるが、その間は誰もいない。危険なことをしていたら、その場で注意しないと、子どもはあとから言ってもわからない。
 「ダメ!車椅子はおもちゃじゃない。乗っている人は怖い!」と教える。「私の次男の同級生は小学校からずっと車椅子で、友達が階段もあげておろして、してたのよ。だから、知ってるのよ」と立場を言う。こんなときは「つどい場さくらちゃん・北海道・車椅子の旅」の経験が役にたつなあ。早苗パパとつよしじいちゃんのおかげだ。ちゃんと次の世代に受け継いでいくよ。
 班について歩きながら、誰かれなく、いろいろ気づいたことをその場で言っていく。
 階段の上に来た。車椅子をかかえておろして、下では体育倉庫の周りを1周して戻ってきて、またかかえてあがる。ここではおりる班と、あがる班が交錯する。危険この上ない。第一、生徒は声を出さない。私も階段のあげおろしなどしたことがないのに「人数が足りない」班のお手伝いで、おりること1回、あがること1回。平らなところで、押すこと1回、乗ること1回。
 最後のゴール、体育館の入り口では「えっ?この班、女子はまだ乗ってないの?乗りなさい。練習にならない!」と先生に言われ、それでも尻ごみする生徒3人に「私が押してあげるから乗り」と言って、乗ってもらった。ゆっくりゆっくりスロープの上まで来ると別の先生に「もう時間がありません。急いでください」と言われ、それでも「大丈夫よ。ブレーキして。乗って」押すときは「大丈夫でしょ。スピードあげたら怖いよ。着いたよ。ブレーキかけて、おりて」次の人には「方向転換するよ。坂道、おりるよ」前を見るとゴールの先生が「次の人に交代!」と言われるので止めて「はい。代わります。ブレーキかけて。おりて」「乗って。ブレーキはずして。行くよ」基本の声かけは怠らない。それが怖くない秘訣。「坂道をおりるときは後ろ向きにおりるんだけど、やってみるよ」とやってみたら、車椅子が左右に揺れた。生徒が「あー!」と言うので「怖い?前向き、後ろ向き、どちらがいい?」と訊くと「前向き」と言うのでまた方向転換。とにかく、怖がらせてはいけない。安全運転。免許皆伝。
 私が押すと前に人がいたら「通ります。失礼します〜」とか言いながら行くし、階段では「おりますよ〜。上がる人、ちょっと横によけてもらえますか?」とか言ってから動く。おりるほうが優先だろう。止まれないもの。
 階段だ。問題の階段だ。乗らずに下をみおろすだけで怖い。かなり急である。誰が乗るか?体重だ。健ちゃんよりも軽い子を乗せよう。女の子が乗る。4人で持つが、「掛け声かけて」と言ってもなかなか「そーれ」とか言ってくれないので、揃わない。乗っている子は「こわい〜」と言いまくる。怖いと思うよ。4人の気持ちが揃わないと、しずか〜におりることができない。左右に激しくゆれたり、ガックンガックンでは怖いだろうよ。おつかれさん、大変だったね。
 おりてからは平坦なので、健ちゃんを乗せる。次に「私が乗るから健ちゃん、押して」と代わる。左に排水溝の蓋があり、穴ぼこがあいているので、ガタガタ揺れること。右に60cm四方ぐらいの鉄板があるが、健ちゃんには見えないからガクンと止まった。ここで交代。階段をあがるのは知らない。私は3人であげようとする班を手伝って、後ろを持ってあげたから。
 まぁ、なんというか、大変な授業でしたね。「君達のおじいちゃん・おばあちゃんも車椅子のお世話になるかも知れないね」と言って別れたが、何かを感じ取ってくれたと思う。