入浴介助

 まるちゃんが1階の各部屋をまわり、車椅子の人達に「お風呂、入ろう」と誘ってまわっている。早苗さんも「お父さんは疲れたからもう寝るわ」と言う。昨日は入っていないので、今日、入れてあげるはずだったのに...夕食が終わるのが遅れ、ホテルに帰ってからも安永さんも私達も明日のネイチャーツアーの説明を聞いていたから、よけいに遅くなったのだ。待っていられないわねぇ。
 安永さんが大浴場の前のベンチで待機している。悦子さんとパパは夕食バーベキューに行かず、ホテルで遅い昼寝。起きて元気回復、カレーライスをしっかり召し上がっている。まるちゃんが前に座り「お父さん、お風呂、入ろう」と言うが、うんと言わない。私はパパの後ろに立っていた。まるちゃんが「お父さん、温泉、行こう」と言うと、パパは「行こう」と言った!「よし、行こう」と気が変わらないうちに、私はパパの車椅子を押す。そして安永さんに引き渡した。
 あとは忘れた。ベンチで何人かでおしゃべりしていたのかな。二日とも同じホテルなので、いつのことだか、記憶があいまいだ。
 入浴介助メンバーは安永さんと夫、つねあき君だ。国さまもいたかも知れない。誰かが「お父さんのバスタオル!」と言ったのだ。悦子さんが部屋に取りに走った。お父さんの私物のバスタオルを持って戻ってきたら「違う!ホテルの!」と言われ、また戻った。私もついて行ったかも知れない。クローゼットにタオルとバスタオルが2セット、入っていたのだ。それを持って大浴場に行く。
 お父さんが出てきた。私は部屋まで送ってあげたと思う。そして、タオルを干してから部屋を出た。
 今晩は二次会も「入浴介助、ごくろうさん」のビールもないみたい。皆、明日の朝が早いのでさっさと寝たのだろう。しかたなく、夫は缶ビールを買いこんで部屋の冷蔵庫に入れ、二人で反省会をする。
 
 つねあき君が「去年の悦子パパは自力で歩いていた。お湯をかけると『熱い!』と怒るし『ごめん、ごめん』と言っても、浴場を飛び出し、脱衣場に行って『寒い!』また『ごめん、ごめん、頼むから入って』となだめて入ってもらった。今年は歩けない。たった1年でこんなに弱るのか、と思うと悲しくなる」と言っていたそうだ。
 その1年の間に入院されたんだよ。普段は「元気印」のじいちゃんだったから、こたえたんだろうね。歩けなくなり、おしっこも管でとって尿バッグを車椅子にぶらさげている。それでも悦子さんは、パパが「北海道、よかったな」と言われるのを聞いて、参加する決心をしたのだ。食事の度に、目をつぶって満足そうな顔をしてもぐもぐしているパパがいる。ときどき、ドキッとするようなことを言うパパがいる。それを見たり聞いたりして、にっこりしたり、げらげら笑う旅仲間がいる。
 悦子パパは今日は温泉につかったのか?だめだったそうだ。洗うときはなんとかなったが、温泉に入ろうとすると「熱い!」と言って入らずじまい。でも、脱衣場の扇風機は止まっていたし、まぁ風邪もひかないだろう。
 でもな、私が部屋までパパを送って行くと、パパはにこっとして「お母ちゃん、ありがと」と言ったのだ。おいおい、入れてあげたのは「おっちゃんたち」だぞ、と思ったが、言ってみても始まらない。生みの親も奥さんも娘も含む「永遠の心の母」が「お母ちゃん」一言に入ってしまっているのだから。