スーパー護身術 つかまれた手を振りほどく

 夫が言う。「あのな、じいちゃんにつかまれたら逃げられへん。握手なんぞされたら離してくれへん。そこで、自分の腕を出し、手首を握らせる。これなら、じいちゃんの親指のある方向へ自分がねじれば簡単にはずせる」早速実演。夫の腕を表から裏から上から握ってみるが、するりとはずされる。「ほら、な」「うん、なるほど。なんで、こんなこと知ってるん?」「護身術や」「そうかぁ。明日、早速、悦子さんに教えてあげよう。じいちゃん、どこでも握るからほどくのに苦労するもんな。そこらの手すりを握られたら困るよな」
「温泉に入れてあげるとき、初日の二人は、今、自分が何をしてもらっているか、わかっているから楽なんや。じいちゃんはわからへん。温泉に入れてもらうことも、一つ一つの動作もわからへん。わからへんからこわい。こわいから、どこかをつかむ。
 シャワー用の椅子には手すりが無い。つかむ所が無い。そやから、洗ってくれる人の手を握ったりする。それで、わしが『つかまり棒』になればいいと気がついた。両腕を出して、じいちゃんに握らせて支えているときに、あとの二人が左右から洗ったりお湯をかけたりすればいい。安永さんは『じいちゃん、大丈夫だよ。気持ちいいよ』と耳元でささやきながらやっていた。洗い終わったら、わしが自分の体を上げたら、じいちゃんもつられてあがる。後ろの二人が支える。湯船のほうにわしがそろそろ行って、じいちゃんがくるようにした。けど、入ろうとしても入らんかった」なるほど、なんとか光景が目に見える。