「特別保護区へ」

 6時20分、山道ふぜい。たて看板「天然記念物・釧路湿原 指定日・昭和42年7月6日。この先、特別保護区。立ち入りには文化庁長官の許可が要る。問い合わせは町教委へ」和田さんが許可を持ったガイドさんだから入れるのだ。しずか〜に入る。
 枯れた木に「さるのこしかけ」エゾソカの食べた跡。ハンゴン草。返魂。あの世から、おいでといっている。
 6時24分、カッコー、ホッホ、カッコー、ホーホケキョ...オオアマドコロ、ミズナラ、シラカバ。クマ除け鈴。
ヤチハンノキ。「ササはここで終わり。左にササがあって、右は無いでしょう?ササのあるところは乾いている。ササが途切れたら湿原。この花、地味ですが、かすかに香るでしょう?ジャスミンの香りですね」ヤチダモ。
 歩き方はその人それぞれである。私はメモを書こうと、和田さんに遅れないようについて行くが、たまには花の絵を書いていて、大幅に遅れる。安永ママは速い。80歳を過ぎておられるが「山歩きの会」に入っておられたとか...ももちゃんは後ろのほうで、まるちゃんと来る。和田さんに借りた大きな双眼鏡が重いのに、放さない。昨日、釧路川で蚊にかまれた跡がまだ痛い。でも、頑張って歩く。あとは山が好きな人や花が好きな人らしく、健脚らしい。そんなにきつい登りではなく、足元に木の根が出ているぐらいで歩きやすい道である。
 6時30分。「集まってください。今から私がドン!としますから...」和田さんは飛び上がってドン!と着地すると、皆もドン!と揺れる。地面が振動する。「この下には水脈があって、流れています。森の養分が運ばれます。表土は30cmしかなく、固いですが、この棒を刺してみます」ズブッと入り、引き抜くと泥でぬれている。「これは泥炭、ピートモスで、乾かすと燃える土です。1cm堆積するのに10年、5mですから5000年かかっています」へぇ〜!悠久の年月だね。「ピートモスって、ウィスキー作りのか?」と言うのはだ〜れ?食い物にかけては詳しいやつ?「森の中心部は川が集まっているところです。川から海に流れ、魚を育てます。そのために漁師さんは森に木を植える。魚つき林です」また歩く。ミツバ。
 6時34分「エゾシカがすべった跡です」確かに急な坂道で足跡がある。スーッと流れているのが、すべったのね。「サルのコシカケや」と枯れた木を見ては言う人。「サルは北海道にはいません」そうだが、では「サルのこしかけ」はどう言うの?どれもが「癌の薬」になるわけ?ならないの?
 和田さんが左右の木を「カンカン」たたいて歩く。よく響く。「いつも決まってたたいて歩くと、野生動物は『人間が来た』と学習するのです」なろほど「おしゃべりしながら歩いて」と言われたが、皆、そのゆとりはなさそうで、無言で歩く。和田さんの声と鈴の音、木をたたく音が響く。
 左に倒木があり、細い木にひっかかって止まっている。落ちても困るし、和田さんが棒でつつくが「はずれそうで、はずれないのです」と言われる。
 桐の木だ。桐は成長が速く、花も目立つが、この木は幹が松のようだ。葉はたしかに桐なんだが...
 けもの道、ササ踏みしだく...カンカン、たたく。