介護レポート・いま、地域で(認知症とともに生きる)「介護の苦悩を分かち合い、社会に生かす力をつける『つどい場』」

 認知症の人の介護は、元気な頃の本人を知っている家族にとって、とりわけ辛い葛藤が伴う。NPO法人「つどい場さくらちゃん」では、そんな苦悩を抱えた家族が集い、涙を力に変えて、様々な活動の和を広げている。8月のある日「つどい場さくらちゃん」で半日を過ごしてみると...2回にわたりレポートする。取材・文・渡辺せつ子
丸ちゃんの笑顔と「よしよし」
 阪神西宮駅から歩いて数分。「つどい場さくらちゃん」は住宅街の、ごくふつうのマンションのなかにあった。ドアを開けると、代表の“丸ちゃん”こと丸尾多重子さんの満面の笑顔が...お昼どきで、テーブルには厚揚げの炊いたのやキンピラゴボウ、焼き鮭、サラダなど、丸尾さんの手料理がたっぷり。「この煮付け、おいしい」「じゃあ、こっちにもまわして」。テーブルを囲む数名が、ひとつの家族のように大きな鉢から小皿に取り分けていただく。おいしいものがあると、すぐに打ち解けられるから不思議だ。誰からともなく、各々の介護の日々を明かしてくれた。
 Nさんは17年間、脳出血で倒れた夫を介護している。Aさんは93歳の認知症のお母さんと一緒に、デイサービスが休みの日は「煮詰まってしまうから」とここにやってくる。すももさんは、丸尾さんに触発されてブログで認知症の養母の介護の様子を発信中だ。「夜中にたまらなくなって泣きながら電話しても、丸ちゃんは『よし、よし』と聞いてくれ、救われる」とすももさんが言うと、NさんもAさんも、大きくうなづいた。
介護は、学びと成長の場
 実は丸尾さん自身、両親と兄を10年かけて次々に看取った。長年の介護経験を仕事に生かしたいと、ヘルパー研修を受けたとき、転機が訪れる。「実習した施設では入浴と称して、入居者をストレッチャーに固定し、ホースでお湯を浴びせかけていた。裸の女性の『痛い、痛い」という声と涙が忘れられません。介護の世界を、本人や家族の立場から変えなアカンと、怒りに駆られて’04年、ここをオープンしたんです」と丸尾さん。
 「つどい場さくらちゃん」の主な活動は4つ。この日のように、しゃべったり食事をしたりの「つどい場」、北海道旅行をはじめ年に数回する「お出かけタイ」、介護・医療についての講座や研修をおこなう「学びタイ」、認知症の人や要介護の高齢者にスタッフを派遣し介護家族を支える「見守りタイ」だ。運営するのはメンバー自身。丸尾さんは言う。「ここは介護の悩みを吐き出して終わりではないんです。流した涙を力に変えて、会の世話をしたり、講座で経験を話して社会参画する。介護は大変なことですが、学びの場であり、成長の場でもあるんです」
「ごちゃまぜ」から生まれてくるもの 「つどい場さくらちゃん」のリビングに座っていると、鍼灸師、大学教授、医師、介護士、ボランティア、大学生...入れ替わり立ち代りたくさんの人がやってきて、笑ったり、議論したり、なんともにぎやかだ。丸尾さんは「介護、医療、教育...ごちゃまぜだからこそいいんです。読者の皆さんも一人で悩まないで、いつでもどうぞ」と話す。
 次回はAさん母娘のこの8年間の暮らしを中心にレポートする。