「エコ・コンシャスの薦め」大阪産業大学教授 花田眞理子さん 朝日新聞1月25日「環境ルネッサンス」より

 いつからでしょう、電車に「優先席」などという情けないものが登場したのは。指示されなくたって、しんどそうな人がいたら譲ってあげようと思うのは自然な気持ちでしょうに。自分が相手の立場なら、と考える想像力や、他者を気づかう心のゆとりがだんだん失われてきてしまったのではないかしら。
 私たちは経済効果ばかり追いかけて、ゆとりや真の豊かさの意味を見失ってきたようです。大量生産は多くのごみを生み出し、どこへ行くにも車を使う肉食生活の果てにはメタボと生活習慣病が待っていました。大好きなエビが安く買える裏で、外国の自然を踏みつけにしているのだけれど、一生行くこともない国の生態系のサケビなんか、気がつきもしませんよね。便利になった結果、ますます忙しく仕事に振り回されてしまう私たちって、本当に幸せなのかしら?
 少し立ち止まって周りを見回してみる余裕を持ったほうがよさそうですね。目の前にあるモノ以外に目をむける、耳を澄ます、そんな感受性を「エコ・コンシャス」と呼ぶことにしましょう。車椅子で通りすぎる道も、歩いてみれば発見に満ちています。エコ・コンシャスはしなやかな感性、品性なのです。エコ・コンシャスならば、自分以外の他者、生物種、自然、遠く離れた外国、7世代先の世代の人々...と想像の翼は大きく広がっていきます。思いがけない「つながり」にも気づくでしょう。
 大阪は人のつながりが濃い地域。うちの大学の留学生は、私が知る限り例外なく、電車の中であめちゃんをもらった経験があると言います。大阪のおばちゃんは、留学生の寂しさや大変さを察して、励ましてくださっているのでしょう、実に自然に、スマートに。これがエコ・コンシャスなのです!
 見回せば、年々桜の開花時期が遅くなり、紅葉は色褪せ、野菜からは旬が失われ...。これらは未来に対する警告かもしれません。今日の自分の暮らしと遥か後の世代がつながっていると感じることができれば、一人ひとりが創造力を発揮して、人間らしい暮らしの工夫をするに違いありません。
 あめちゃんがつなぐ人の気持ちは、互いと思いやるエコ・コンシャスな社会への第一歩。豊かな人情で自分以外の存在に思いを馳せる「なにわエコ・コンシャス」こそ、環境問題の解決に近づくクールなヒ9ントです。経済危機に見舞われた’09年の社会を元気にする合言葉は「エコ・コンシャスで行こう!」