電話が鳴った

 施設の副荘長さんだ。
 「ばあちゃんが、夕食後、ふわ〜っと倒れました。状態が良くないです。救急車を呼んでいます。すぐに来てください」
 夫は会議に行っている。電話をしてから、私は着替えて財布だけ持って家を出る。保険証は施設に預けてある。
 施設は急な登り坂の上だ。走る元気も無いので、ふうふう...ポストの角を曲がると、今度は急な下り坂。施設の前に救急車が止まっている。荘長さんが玄関で迎えて下さった。
 救急車に乗り込む。担当の男性職員さんも付き添って下さる。
 ばあちゃんは横になっている。目をつぶったままだ。「ばあちゃん、起きて!起きて、ご飯、食べな!」と呼んでみる。ご飯、と言えば、反応するかと思ったのだ。毛布の下のばあちゃんの手を取ると、冷たい。くすぐっても反応が無い。足も冷たい。反応するかと思い、ずっとさすっていた。普段はばあちゃんの体に触れたりしないのにな。
 受け入れ先を探している。救急隊長さんが「心臓を診られる病院を探しています。時間はかかっても、診られる病院でないとだめです」
 相手の病院の方が「心電図を送って下さい」と言っておられる。救急車の中の電話ファックスで送る。やがて「来て下さい」の許可が出た。
 サイレンを鳴らして走り出す。すぐ下の国道を行き、高速道路に入る。わが家のすぐ近くなのに、運転できない私はこの高速道は2度目だ。しばらく走って、病院に着いたのは、6時45分だった。夫は会議の途中でぬけてあとを追ってくるはずだ。