「母の乱・・無慈悲と慈愛」沖藤典子著 文芸社 2007年

第1部 気性のの激しい人
1.告白  「母さんを軽蔑するかい?」
2.出会  神人共に許すべからざる儀
3.闇米  十勝平野に咲いた才覚
4.出自  生きるよすがとしたもの
第2部 断ち切れぬ母子の絆
1.対面  臨終の母に会いに来た子ら
2.葬儀  表裏なす母への愛憎
3.再会  兄妹の因縁と“母さん”探し
4.反旗  真相は家庭内暴力にあったのか
第3部 時を経て深まる愛と赦し
1.歳月  新しい縁と長兄の“戦誌”
2.尊厳  百年の後遺症をもたらすDV
3.火焔  改めて知る祖母と母の悲運
4.山野  生き延びてきた命に降り注ぐ光

 ずしりと重いこの本は、小さな文字で、本文とあとがきで337ページもある。挿絵も写真もない。お母さんのことを書いておられるのだが、すごい迫力でせまってくる。ぐんぐんひきこまれ、一気に読めてしまう。この文章力に圧倒された。今までこのようなすごい文章を書く方に、巡り会ったことがないような気がする。
 小説家?ノンフィクション作家。「北海道生まれ。1961年北海道大学文学部卒業」とある。
 「母の乱 無慈悲と慈愛」という題がとても重い。入植し、北海道開拓に携わったご先祖。そういう苦労は我々には計り知れない。
 吉永小百合さんの「北の零年」を見に行った。でも「こんなもんじゃないな」と感じる。私たちは百姓なので、小説を読んでも映画を見ても、ご先祖の苦労を感じるのだが、現代に生まれた、土から離れた人たち、自分で食べ物を作ったことがない人たちに、はたしてわかってもらえるかな?とすぐに思ってしまう。
 私は戦後すぐの生まれなので、「平和」をいつも感じるように教育を受けてきたし、「戦争」は親から聞かされている。でも子供の世代に語り継いでこなかった。自分では当たり前に感じることも、語り継いでこなかったなぁ。ぬけていたと思う。
 沖藤さんはお母さんのことを書かねば、と思われたのだろう。その人生は苦労の連続であった。
 私の母も「貧乏で苦労した」とよく言っていた。父は「親がけんかばかりしていて、嫌だったので、自分は夫婦げんかをしないように努力している」と言っていたそうだ。母親、つまり「たたかうおばあちゃん」はけっこう激しい人だったので、父親が優しかったのだ。父は5人兄弟のうち成人したのは2人、母も兄弟姉妹が多いが、一番上の姉と兄は先妻さんの子供である。乳飲み子を残して死なれたので、父親が再婚したからだ。昔は、戦争で夫が亡くなり、その弟と結婚して家を守る妻、なんて普通だった。「家」の存続のために辛抱したのだ。
 沖藤さんのお母さんは夫の家庭内暴力(DV)のために家を出られた。そして残された子供たちが母親を求める気持ちを書いておられるのだが、「今はわかりあえてよかったなぁ」と思えるので書けた話である。しかし難しいなぁ。どれだけの時間とエネルギーが、お互いに必要であったことか。それを思い巡らすと心が痛む。本の重さは中身の、人生の重さであった。