市民福祉情報・オフィス・ハスカップ

※沖藤典子さん(ノンフィクション作家)の
 審議会傍聴記は
 ご本人の許可を得て、
 沖藤典子の公式ホームページ「らっきょう亭」から
 転載させていただいています。2011/04/20
2.始まった第5期 介護給付費分科会
 東日本大震災から1カ月余、その被害の大きさには、言葉もありません。
 さらに原発の被害。地震津波放射能
 この三重苦の中で多くの介護職員達が
 不眠不休で仕事を続けているかと思うと、
 そのご尽力にただただ感謝です。

気になる被災地の介護職への補償
 今回の災害では、多くの方々が津波に呑み込まれました。
 その中には介護職もたくさん含まれています。
 今一番気になっていることは、
 亡くなった方々、過労で病気になった方々、
 自宅待機を余儀なくされている介護職に対する補償は
 どうなるのかということです。
 「あの家に年寄りがいる!」と海辺に走って、
 波にさらわれたへルパーさんもおられるとか。
 もともと介護職の賃金は十分とはいえず、
 その雇用も非正規が少なくありません。
 使命感に燃えて年寄りを守ろうとした方々の、
 労災とか弔慰金の支払いは、どのようになるのでしょうか。
 こういう方々に対して男女の差や、正規・非正規の差がないように、
 心深く願っております。

老健局発出の大震災対応連絡は58本
 さる4月13日、第72回介護給付費分科会が開かれました。
 2011年度の初会合です。
 冒頭、今回の災害に対しての厚労省の対応が説明されました。
 「利用者への対応(被保険者証なしでの介護サービスの利用。
 保険料、利用料などの免除、猶予等)」
 「事業者への対応」
 「市町村等への対応」
 などが説明されました。
 3月11日から18日までの1週間で、
 老健局から発出した通知・事務連絡は、58本にのぼります。
 対応が早かったといえばその通りなのですが、
 余震の恐怖や混乱、職員の死亡や疲労の中で、
 こういう通知等を受け取った現場の方々の対応は、
 いかに困難を極めるものであったか、想像に難くありません。
 この後の議論の中で、福田富一代理
 (全国知事会社会文教常任委員会委員長、栃木県知事)が、
 「省令、解釈通知の消化に労力を使っているが、
 給付費の支給要件をシンプルにして欲しい」と発言しております。
 この発言は災害に限ったものではないものであるにしろ、
 上意下達で現場を窮屈にすることへの
 現場の悲鳴のようにも聞こえました。
 この日は、介護職員処遇改善交付金の方向性について、
 「もう賃金の一部になっているのだから継続して欲しい」
 などという意見が多くありました。
 ただ、給付費の中にいれるのか、これまでのように
 税による外付けにするのか、議論は深まりませんでした。
 また、労災や弔慰金の問題について触れた委員は、
 残念ながらおりませんでした。

何を「介護事故」とするのか
 分科会ではいつものように多様な意見が出されましたが、
 印象に残ったものをあげると、
 「医療と介護の連携を今後どうするのか」
 「医療対応の増加」
 「中重度に力点を」
 「好き勝手な利用をしている」
 などの軽度者はずしの流れを汲む意見と、
 生活の現実から見て生活援助の安易な切捨ては許されないなど、
 意見の対立がありました。
 「医療からのアプローチと介護からのアプローチとでは
 違うのではないか」という意見もあって、
 介護保険とはいったい何を「介護事故」とするのか、
 高齢者の何を守るのか、
 今後の給付のあり方をめぐって、
 「生きるとは何か」の議論が深まることを期待したいと思います。

訪問看護師の一人開業
 地域包括ケアの目玉、
 「定期巡回・臨時対応型訪問介護看護」
 (いつの間にか24時間が消えた)については、
 地域の医師や看護婦、介護職員などの偏在から
 実現可能なのかという意見もあり、共感大でした。
 多くの時間をとったのが、
 訪問看護サービスの人員基準
 「事業を行う事業所ごとに置くべき
 保健師、看護師、准看護師の員数は、
 常勤で1以上とすること」についての議論です。
 これは、厚生労働大臣社会保障審議会会長→
 介護給付費分科会会長と降りてきた諮問への
 答申が求められたものですが、
 看護協会などからの強い意向があって
 「今回制定する基準は、東日本大震災に対処するための
 特例措置であり、この限りの取り扱い」となりました。
 私の知人の中には、一人開業を強く要望している
 ナースのグループもあり、
 訪問看護の充実に向けて、今後の検討が待たれます。

心ある議論を
 今後ますます議論が対立するであろう介護保険
 財源論にのみ与することなく、
 災害弱者でもある高齢者の日々をどう守るのか、
 心ある議論を期待したいと思います。(沖藤典子)