2014.05.27 厚生労働大臣に介護労働について要望書を提出しました。

     市民福祉情報・オフィス・ハスカップ5月31日号
介護労働ホットライン実行委員会は5月27日、田村憲久厚生労働大臣に「介護労働者の労働条件の改善を求める要望書」を提出しました。
厚生労働大臣 田村 憲久 様
介護労働者の労働条件の改善を求める要望書
          2014年5月27日 介護労働ホットライン実行委員会  
          共同代表(弁護士):大江京子、井堀哲、藤澤整

1 電話相談「介護労働ホットライン」から見る介護労働現場の実態
 介護労働ホットライン実行委員会は、弁護士と市民活動団体のメンバーで構成するNPOです。
 2013年10月と2014年2月の2回、電話相談「介護労働ホットライン」を開設しました。
 全国のホームヘルパー、施設職員など介護労働者から寄せられた相談は、低賃金と長時間労働がもっとも多く、他業種に比べて深刻な実態が明らかになりました。
 私たちは、社会保険制度を担う労働現場が「ブラック事業」化している現状を危惧しています。
 また、進行する高齢社会のなかで、介護保険は大変重要な社会保険制度であり、安定的な介護サービスが提供されるためには、介護労働者が職場に定着し、子どもを生み育てる労働条件が不可欠であると考えます。
 国の責任において、緊急に介護労働環境の抜本的改善に着手することを求めます。

2 持続可能な介護保険制度のために、介護労働者の労働条件改善と地位向上が不可欠
(1)介護労働者の賃金水準の抜本的な改善を
 厚生労働省が公表した「2012年度介護従事者処遇状況等調査報告」では、介護労働者の平均給与(常勤・月給の者)は26万9,760円(基本給は17万4,690円)と報告されています。
 介護労働者の給与が全産業平均を大きく下回ることは厚生労働省も認めているところです。
 しかし、医療・介護提供体制改革の新たな財政支援のために、地域介護施設整備促進法を改正し、消費税の引き上げ分で新たな「基金」を都道府県に創設することが謳われていますが、介護人材の確保のために有効な施策は見当たりません。
 また、通常国会で審議されている介護保険法改正案に、介護労働者の労働条件の改善策は盛り込まれていません。
 厚生労働省は、介護労働者の処遇改善について、2015年度からの次期介護報酬改定で検討するとしています。
 しかし、すでに開会されている社会保障審議会介護給付費分科会では、今年度末までと限定されている「介護職員処遇改善加算」をめぐり、「介護職員の賃金は必ずしも低くはない」、「賃金水準は離職率と関連がない」といった驚くべき発言が出ています。
 現行の賃金水準を維持し、介護労働者の離職傾向に歯止めをかけるためには、「介護職員処遇改善加算」を維持することは最低条件です。
 介護報酬の構成は、利用者負担(利用料)が10%、介護保険料が45%です。
 利用料と第1号保険料を負担する高齢者は、年金という限定的な収入に頼る被保険者であり、介護報酬の比例的な上昇を図るのは困難です。
 現在、介護労働者は136万人で、団塊の世代が75歳を迎える2025年までに最低でも100万人増やさなければならないなか、経験豊かな人材を確保するには、介護報酬とは別に財源措置を行うことが不可欠です。
 介護労働者の給与引き上げのために、早急な財源の確保を求めます。

(2)労働基準法遵守の徹底を
 介護保険制度創設以来、介護労働者は毎年10%を超える増加率を示していましたが、2006年になり伸び率はひとケタに下がり、2010年には1%減とマイナスに転じました。
 また、厚生労働省は2008年から1年間で、介護労働者は28万人が新たらに入職し、同時に22万人が離職し、差し引き6万人増と報告しています。さらには、離職者のうち63%は「他産業に出ていく者」で、介護分野の定着率は非常に低調です。
 このままでは「2025年問題」以前に、労働者不足からサービスを利用できない事態が起こりかねません。
 電話相談では月80時間以上の過労死認定基準並みの長時間労働の存在、残業代未払いと「サービス残業」の恒常化、過酷な深夜労働、休憩・休日を保障されないなど、最低限の労働条件を定める労働基準法に違反している実態が浮かび上がっています。
 厚生労働省はもとより、介護保険の運営に責任を持つ保険者である市区町村は、介護保険サービスを提供する事業者に対して、労働基準法の遵守を徹底させる措置を早急に講じることを求めます。
 また、現場で働く労働者にも「労働者の権利」を教育することを求めます。

(3)実態に即した介護労働実態調査の実施を
 厚生労働省が実施する「介護従事者処遇状況等調査」では、1年以上勤務する介護労働者を調査対象としています。
 しかし、電話相談では、現在の職場での勤続年数は1年未満であるものの、介護分野での通算勤続年数は10年を超える者がトップという特徴がありました。
 年間17%を超える労働者が離職するなか、1年未満で退職する労働者の実態は把握されたことがありません。
 また、介護労働者はホームヘルパーに代表される訪問系サービスと、特別養護老人ホームなど施設職員で、大きく労働形態が異なります。さらには、厚生労働省調査でも、地域密着型サービスに位置づけられている認知症高齢者グループホームの職員は賃金水準が特に低く、夜間勤務配置基準が1人と過酷な労働環境にあります。
 実態に即した介護労働実態調査を実施し、合理的な改善策を検討することを求めます。
以上      2014/05/29