車椅子バス

 車椅子の女性と知り合った。高口光子さんの講演会のときだった。「押してあげようか?」と言うと「大丈夫。自走です」と言う。歩けないだけで、手でこいで移動できるらしい。小雨が降ってきたときだけ押してあげたら、「あとは電車で帰ります」と言って、エレベーターに消えた。
 その女性はとても素敵な響きの名前なのだが、断っていないので匿名にしておく。「車椅子バス」について尋ねてみた。私がいつも家の近くから乗るバスには、車椅子対応型がある。中央に乗降口があって、車椅子の人のための座席が表示されている。だが、未だかつて車椅子の人が利用しているのに出会ったことが無い。バス停の時刻表に車椅子マークは無いので、来たときにバスの前面の行く先表示の横の車椅子マークを見て「あら、車椅子バスだ」ということになる。予定もたたないのに、利用するはずがない。おまけにこの特別席のために、他のバスよりも座席の数が少ないので、元気な乗客からは評判が悪い。
 彼女に言ってみると「私は尼崎市に住んでいます。車椅子バスは、民間バス会社と市バスがあって、市バスのほうが、運転手が親切です」と言う。なるほど、設備だけあっても人の心が大切ということか。利用する人がいないとは、もったいない話。