車椅子は難しい

 帰ってから、友達に「車椅子を押すのって難しいわ」と言うと「乗ってる人は怖かったと思うよ」と言われた。あ、そうか。ごめんね、つよしお父さん。お父さんが何も文句を言わないのをよいことに、かなり強引に運転してしまった。並みいる介護職の人たちに「下手やなあ」と言われた。「だって、初心者マークも持ってない無免許運転やもん」申し訳ない。
 車も自転車も乗れない運動おんちだったのだ。ごめん。一輪車しか運転しないのだ。一輪車なら、落としてもなんきんや芋だから、拾えばいい。お父さんを落とすわけにはいかない。
 動く前には、お父さんの足がステップに乗っているかどうか確認しなくてはいけない。お父さんに「足を乗せてくださいね〜」と言いながら片足を持って乗せると、もう片方は自分で乗せてくださるので、感謝。 
 歩いていて、コーチが後ろにいるときは「速過ぎる」と注意された。「右に寄りすぎよ。お父さんの手が壁に当たるよ」と言われて、あわてて戻した。「どうも、右に寄り過ぎるのは、左手の方が強いのね」とプロの分析。そうか。畑から一輪車で帰るときも行く時も、時計の反対、つまり左回転でカーブを曲がる。くせになっているのかな。一輪車を押す時に、左手がいっぱい伸びても、右手は余る感じがするのは、左手が短いのかも知れない。
 バスに車椅子を乗せる時は、高橋ガイドさんが乗せて、スイッチを操作し、上で小林運転手さんが受け取る。このときに、車椅子にくっついて乗ったら、いきなりガタンと揺れて、びっくりした。こわ〜っと思った。お父さんも思ったのかな。2回、3回と乗るにつれ「慣れた!」と喜んだりして...おりる時は、前を向いて乗っておりるほうがこわくない。偶然、後ろむきになったままおりたら、私のすぐ後ろには地面が無いわけで、空中移動がおっかなびっくりだった。かなり、こわがりの部類に入るなぁ、私。
 食事のときに、座席に入るのが、これまた難しい。カーブを曲がるタイミング、ハンドルを切るタイミング、そういうのだろうね。やりなおしの連続だ。
 エレベーターに乗るのが難しい。「北こぶし」のエレベーターは広くなかった。お母さんが乗って、ドアを押えて開けていてくれて、私とお父さんが乗った。「ラブニール」のほうが広かった。「北こぶし」は部屋の入り口も広いとは言えなかった。廊下から部屋に入る時は直角に曲がるのだから、かなり難しい。
 また、途中のお店やレストランでは、車椅子トイレがあるところを選んでくださっていた。エレベーターの無いお店では、屈強な男性が4人も待機していて、持ってくださった。感謝、感謝。
 空港では、1台につき、係りの人が一人以上ついて押してくださる。若い人が多かったので「ありがとう。お父さんはね、倒れて17年間、旅行に行ってなかったのよ。今回、行けてとてもよかったわ」とお礼を言っておいた。車椅子を押してよかった、と思ってもらえたら、次から行く人が楽になるよね、と思う。感謝は口に出さねば、伝わらない。
 その点、お母さんは何をしてもらっても、しないで側にいるだけでも、常に「申し訳ないわ、こんなにしてもらって。ありがとう」と言葉を忘れない。ときには「お母さん、気を使いすぎ!私達にまかせて!」と言われていた。お父さんがときどき見せてくれる笑顔だけで、充分、側さんもまるちゃんはじめ同行者も、にっこりだったよ。