「痴呆老人が創造する世界」

 阿保順子著 岩波書店 2004年 
1.フィクションを生きる老人たち
2.世間という社会
3.それぞれが抱える事情
4.会話アラカルト
5.行動は語る
 著者は看護師として病院に勤め、今は北海道医療大学看護福祉学部教授だ。この本に登場する老人たちは、精神病院内の痴呆専門病棟に入院していた患者さんたちだ。知的機能はもちろん重い障害があり、食事や排泄、更衣などの日常生活にも介助の必要な人たちだ。
 読んでいると、はためには対話しているように見えても、一人ひとりが勝手にひとりごとを言っている。群れになって行動していても、一人のボスが何か言うと、残りのものは「んだ、んだ」と言っているだけだったりする。ほんと「にほんごがつうじない」
 うちのばあちゃんが天才に見えたりする。三好さん・中田さん・阪井さん・高口さん・和田さん・安永さん、皆さんが教えてくださった「ばあちゃんたちとの会話」は皆、天才の集まりだよ。
 それでも、この本が教えてくれたのは、観察のしかただ。老人たちがいるフロアにいて、ときには真横によりそい、遠くからながめ、観察するのだ。老人が発したせりふの最後の一言に響き合わせれば、相手はつづけて話を紡ぐ。とんでもなくとんちんかんでも、だ。記録する事、考える事、それを教えてもらった。だから、また、ばあちゃんのせりふをもっと聞いてみようという気持ちになった年の暮れだった。ではまた。