宅老所語録

*小梅ばあちゃん
 スタッフの人が「お昼ご飯ができました」と言うと、小梅ばあちゃんは「あら、あんたが作ってくれたんか?」と訊く。スタッフが「はい」と言うと「そんなん、気の毒な。気兼ねやから、お金払うからとって」と言う。出前をとれと言うのだ。「ここは、気兼ねのいらないところですけど」とスタッフは小さい声で言っている。(聞こえないように?)
 小梅ばあちゃんは、なおも「気兼ねするより、お金払ってとったほうがええ」と言う。「今度、小梅さんのおごりで、みんなで出前とろう」と言っている人の声、耳に届いたかな?
 午後は、休憩のあと、片付けをする。私は食器を洗う係りで、小梅ばあちゃんはぬるま湯でゆすぐ。さすが元主婦。スタッフが「わ、ありがとう。家でもやっているんですか?」と訊くと「家では、やらん。やると、邪魔になる。みんな、やってもらう。自分では何もできん。世話になって生きとる」と言う。すごいよ。息子さんの奥さんに世話になっているという意味だろうが「世話になってる」と言えるのが、すごい。

*「殿!」
 風格のある方なので「お殿様!」と呼びたくなる。「ご老公」と呼ぶと水戸黄門様みたいで、年寄りになってしまう。この方は若々しい。(ほんとに若いのかも知れない)
 隣りの部屋から、か細い声でなにやら言っている人がいる。どうやら「お茶、ちょうだい」と言っているらしい。「殿さま」は「あの人も、この部屋に呼んでやりたいけど、わがままなので困るのよ。肩がこっているみたいなので、マッサージしてあげようと思って、肩に手をかけると払いのけたりする。親切にしてあげているのに、ね」と説明してくださる。
 その人は別室で一人、手伝ってもらってご飯を食べていた。食べ終わると、またなにやら叫んでいる。「殿さま」は「あの人も寂しいから、呼んでいるんよ」と言われる。すると、テーブルにいた人も、かわるがわる見に行っては声をかけてまた戻って来る。「殿さま」は「あの人がいるだけで、皆も話題が広がって賑やかに暮らせるんよ」と説明された。なるほど、ね。
「殿さま」はさすが、人生の先輩だけあって、話題は豊富、説得力はあるし、聞いていてとても勉強になった。こういう人がいると、まとまるなあ。まとめる人が利用者の中にいなければ、スタッフがその役目をすればいいんだよ、ね。