「老人ホームの錬金術」

 ティモシー・ダイヤモンド著 工藤政司訳 法政大学出版局 2004年
 大阪の大きな書店で買ったのだが、小さい字で、漢字ばっかり...おまけに「翻訳」なので、こなれた日本語にはなっていないし、アメリカの医療や介護やらの事情がわからない。読みにくいのだ。簡単なことが難しく書かれているようなものだ。でも、読み始めたら、興味がわいてなんとか、読み終わった。
 この本の題は「Making Gray Gold 灰色の金をつくる 老人ホームの介護物語」 1992年の本だ。それが日本で出版されたのが、2004年だから、その間にアメリカの事情は変わったのだろうか?変わったのなら、12年もたって日本で出版されるわけは無いだろうから、変わらないとなれば、それはそれで、恐ろしい。
 著者は医療組織を研究する社会学者であるが、自ら職業訓練学校に入って看護助手の資格を取得し、シカゴ市内の老人ホームで1年余りにわたって看護助手として働いた。その体験をもとに、老人ホームの実態を描き、アメリカの医療現場の現状と問題点をさぐった。「アメリカでは老人の日々の介護がどんな経緯で一つの産業となるに至ったか、ならびに老人ホームはビジネスとしてどのように運営されているのか」
 つまり「かなりの入居一時金を持って入居した老人であろうに、必要な金として毎月の費用を払っているうち、一文無しになり、そこからは政府の援助を受ける身となる。財政的な貧困化をスペンドダウンという。その後の政府の援助金は老人ホームに入り、ホームは儲かっていく。が、入居者が受けている介護の中身は、現在の私たちから見ると、とても貧弱だ。『人間の尊厳を保つ最低限の保障』が無い」というのが、私が理解したことの説明。
 一方、介護を担当する看護助手は、訳者の言葉を借りれば「おおむね少数民族第三世界出身の女性で、彼女らは2週間の手取額が209ドルといった最低賃金以下の収入で働いている」そして、その収入では食べていけないので、その仕事が終わってから、もう一つ別のホームでの仕事をかけもちでしたりしている。当然、過労でフラフラだ。
 「アメリカは日本よりも弱肉強食の傾向が強い世界といわれ、公的な介護制度を創設する雰囲気はなく、1990年現在、先進工業国で国民に健康保険のないところはアメリカ合衆国南アメリカ共和国の2カ国だけだ」という著者の記述に驚く。