「忘れるぐらいはいいのよ」  

 ここからは私が書いたメモを元に再現する。なにしろテレビのスピードに合わせて書いて、それもコピーの余白の利用であちこちに散らばっているから聞き間違いや誤解もあるかもしれない。読者の皆さんで間違いに気づいたら、是非、私に連絡をください。
 初めは加藤よしろうさんとふきこさんご夫妻。病院での診察光景と日常生活の映像のあと、会場にご夫妻が登場する。ふきこさんは「高いところから失礼します」と言って腰かける。司会者が「いつもにこにこされてますね」と言うと、ふきこさんが「そうでもないんです。渋い顔もします」と言う。この応答を見たら、素人は「どこが認知症だ?」と言うだろう。よしろうさんが「認知症だと告知されたあと、半年以上、二人で泣きました」と言われた。このほうが真実味があった。「何がきっかけでわかったのですか?」と質問があった。よしろうさんが「スペイン旅行の最中です。1年前から計画をたてて行った旅先で『あした、どこ行くの?』と訊いたのです。おれは『おちゃらけだ』と思いましたよ。今は、この人にはできることと、できないことがあり、それを私が把握しておればいいのだと思っています」するとふきこさんが「意義あり」と言う。「忘れるぐらいいいじゃないの。人さまの物をとるとかはだめですが、忘れるぐらいはいいのよ」と続ける。そうだね〜。
 もう少し詳しく訊く。『早期発見をはばむ壁』
+旅行の1年前の異変 ふきこさんの財布が重いのによしろうさんが気づいた。小銭だらけだ。小銭の計算ができずにお札を出して支払い、おつりをもらっていたのでこうなった。
おせち料理が作れない。できあいの物を買う。ふきこさんは「女の仕事ができない。最低だ」と思って悩む。ふきこさんの日記には、いつの日か聞き漏らしたが「どうしてこうなったのだろう?残念というより悲しい」と書かれていて、悩みの深さがわかる。ここが第1の壁『まさか病気だとは思わない』
+スペイン旅行で「あした、どこ行くの?」の後、よしろうさんは「病院に行こう」と誘うが、ふきこさんは「いやだ」と言う。これが第2の壁『病院に行きたがらない』
+夫妻で検診を受けることになっていた4ヵ月後まで待ち、一緒に受ける。脳のCTも撮るが「異常なし」と言われた。検診ではあかん。かかりつけの内科医にも見せたが「わからん」専門家でないとわからん。これが第3の壁『検診ではわからない』
+よしろうさんは本も読んだ。家でも職場でも読めないので、通勤の電車の中や公園で読んだ。インターネットで調べ、やっと専門医をみつけた。これが第4の壁『どこに行ったらいいか、わからない』
+よしろうさんがみつけたのは、順天堂大学の新井平伊先生だ。最初の兆候から2年がたっていた。それと精神科の斉藤正彦先生。