紙一重

 「紙一重ですよ。私だって、ばあちゃんを殺しかねませんよ」と私が言う。若い彼は「そこを思いとどまるのが、理性でしょう」と言う。
 理性?そんないいもんじゃない。たまたま運がよかっただけだ。ほんの偶然だ。
 罪を犯すか、思いとどまるか、は、理性なんかじゃなく、愛情を感じられるか、どうかだ。悪戦苦闘している私の後ろを支えてくれる人が何人いるか、という「愛情を感じる心」に気づくかどうかだ。
 昔、ばあちゃんがボケかけのころ「ばあちゃんが夜に何回も来るので眠れない。睡眠薬が欲しい」と私の主治医に言うと「すももちゃんを支えてくれる人がいるでしょう。兄弟皆が味方になってくれるでしょう」と言われた。言われて気づいたことだった。