「地域のみなさんへ “認知症”でも大丈夫 正しく知ってみんなで支えよう」平成19年9月発行 西宮市

 この前の介護講座でもらった。「73歳のタエさんには3年前から認知症の症状が出ています。介護をしている娘のサチコさんと息子のカズオさんが心配なのは、タエさんが時折ふらりと出かけてしまうこと。タエさんが事故にあったらと、ふたりは気が気でなりません。タエさんのある日の様子を見ながら、認知症とはどのようなものなのか、そして、私たちに何ができるのか、一緒に考えてみましょう」
 でだしから暗いやんか。70歳で認知症?ばあちゃんはまだまだ百姓でやっていたよ。従姉妹だってもう喜寿を過ぎたが毎日、野菜をJAの直売店に出荷しているよ。せめて、ばあちゃんなみに80歳にしてもらいたい。
1.ふっとわからなくなる
 サチコさんが庭へ、カズオさんもトイレに立ったその時、タエさんは自分が今いる場所がどこなのか、ふっとわからなくなってしまいました。
 これはよく見られる認知症の中核症状のひとつ。場所や時間の見当をつける力(見当識)が低下するものです。中核症状には、記憶や判断力、物事を実行するための力の低下などがあります。
2.ぎりぎりの力をつかって
 玄関を探しはじめたタエさんは、カバンを探そうとしたり、あいさつしようとしています。礼儀作法なども含め、長年培ってきたことは身についているのです。
 このように、認知症の人は、みすからの持っているぎりぎりの力を使ってなんとか自分なりに生活しようと懸命です。
3.安心できる場や人を求めて
 認知症の人は、そこが自分の家であっても「ここはどこ?」「ここにいてもいいの?」「知っている人はどこ?」と、わからないことだらけのままだと不安がどんどんつのっていきます。
 「ここにいてもいい」「この人となら」という安心できる場と人を探し求めて、外へさまよい出ることも少なくありません。
4.見なれた風景が一変する
 家の周りの見なれた風景であっても、認知症の人は不安が高まっていると、ここはどこなのか、どっちに行ったらいいのかがわからなくなり、不安と焦りが高まる中でパニックになっていきます。
 周囲の人からみて、「いつもの場所」「や「どうということのない場面」であっても、認知症の人にとってはわからなくなった怖い場所に一変していることもあるのです。
5.視野が狭まる
 認知症が進むと注意力の低下により、周囲へ気を配れなくなり、目の前のことしか目に入りにくくなります。特に不安が高まるとその傾向が強くなり「わき目もふらず」スタスタ進む姿が現れます。
 また、ここでのタエさんのように認知症の人で文字を読んだり理解できる人はたくさんいます。ひらがなよりもむしろ難しい漢字を読めたりする人も。外見の症状にとらわれず、人によって何ができるのかを見きわめることが大切です。
 タエさんは、男の人と同じ方向に歩き出しましたが、人と同じことをすれば安心、という気持ちが働くことも少なくありません。
6.音やスピードが襲いかかる
 大通りに出ました。目の前を車や自転車が次々に猛スピードで走り去っていきます。「みんな速くて、こわいわ」タエさんはだんだんと不安な気持ちになってきました。早くだれかに話しかけて、道を聞かなければと焦ります。
 くだもの屋さんを見つけて、お店に近づいていきました。
7.そのひと言に救われる
 タエさんは桃を選ぼうと手を伸ばしたものの、手元が狂って指で表面を押してしまいました。
 タエさんが認知症と知っていた店主は、カバンも何も持っていないタエさんを見て「お金は今度でいいですよ」と言ってくれました。もしここで店主が怒っていたら、タエさんは強い衝撃を受けて、混乱してしまったかもしれません。
8.本人から見た危険とは
 桃を持って店を出たタエさん。道端に止めてある自転車につまづいて転びそうになりました。
 おろおろしているタエさんに、40代くらいの女性が声をかけてきました。誰なのかは思い出せませんが、タエさんは女性が自分を知っている人だということはわかったようです。
9.ゆっくり、ひとつずつ
 タエさんは女性に丁寧にあいさつ。認知症であっても、適度な緊張感があれば、場の雰囲気を読み、社会性を発揮することができるのです。けれども、タエさんは女性が誰かわからず、しかも矢継ぎ早に話しかけてくるので、不安になってきました。
 伝わらないと、話しかけているこちらも焦ってきますが、まずは落ち着いて。ゆっくりと、そして言葉を短く、ひとつずつ話してみましょう。そんな言葉かけがあれば、お話しができる認知症の人はたくさんいます。
10.この人は味方
 困惑気味のタエさんでしたが、女性の笑顔を見て、この人は信用できると感じたようです。
 認知症の人は、相手の雰囲気や声の調子、表情などで、信用できるかどうかを直感的に判断し、人を選んで行動することがしばしばみられます。
 認知症の人に「この人は味方」と思ってもらえる人がもっともっと増えると、家族も安心して暮らせるまちになりますね。
11.わかってもらえた
 タエさんが無事帰ってきました。ここでカズオさんたちが「どこに行ってたの?桃持ってきちゃったの?」などと叱責したら、タエさんは混乱して、家の中に入ろうとしなかったかもしれません。こんなときは「私も桃食べたかったのよ」などと本人なりの思いや、しようとしていたことの流れに沿って対応すると、本人は「わかってもらえた」と安心し、落ち着いていくことでしょう。
12.認知症の人と家族が安心して暮らすためには「住民力」が必要です。
 (見開き2ページの町の風景。くるまいすのおばあちゃん、杖をついたおじいちゃん、ベビーカーの母子、介護に悩む人、家から出られない人...それを見守り、声をかけて手伝う町の人々、グループホーム) 
 ばあちゃんの言い方で「けっこ、けっこ、ありがたいな〜」こんなふうにいくといいねぇ〜。どうすりゃいいの〜?それをききたい。
 もどって コラム1.不安・ストレス・無為が大敵 
2.認知症の原因 アルツハイマー病が50% 
3.認知症の人が秘めている力 
4.環境の大切さ
5.悪質商法の被害
6.身体機能の低下について
7.認知症の人への接し方
8.認知症の人の自覚 
 裏表紙に「権利擁護 成年後見制度 福祉サービス利用援助事業」
認知症に関する相談窓口」
介護保険のサービス」以上。
 いかがですか?イラスト入りですが、イメージ、わきますか?「そんななまやさしいものじゃない」という声が聞こえてきそうですね。つっこむなら、くだもの屋さん、電話して下さい。「タエさんが来ています」と。すぐに迎えに行きます。そのためには、うちのように「ばあちゃんがぼけた。たのむで〜」と言いまわっておかんとあかん。意外と言いにくいよ〜。