朝日新聞・16日付け・3面「認知症 介護頼み 限界」(錦光山雅子、北林晃治、沼田千賀子)

 30年後には認知症の高齢者が倍になるという厚生労働省研究班の試算が出た。お年寄りの8人に1人がかかる病気になるが、現状の体制派不十分だ。独居や夫婦2人の家庭が増える将来、どうするのか。介護だけでなく、医療の力を積極的に使う必要がある。

 「地域力」で早期発見
「調子はどうですか」
「迷惑かけてすいませんな」
 6月下旬、大阪市旭区の「松本診療所ものわすれクリニック」。松本一生院長が腰をかがめて話しかけると、女性(69)は笑顔で答えた。中等度の認知症で2週間に1度通院する。
 認知症と診断されたのは’06年秋。様子がおかしいと家族が病院巡りを始めてから、3年余り。5ヶ所目だった。
 検査のため総合病院に入院していた’03年夏、同居していた長女(41)らは、看護師から「夜中に病室をうろつく。他人の歯ブラシを勝手に使う」と知らせれた。退院後に精神科や神経内科のクリニックを受診した。
 まず本人が受診を嫌がった。診てもらっても「年齢的なもので問題ない」。心療内科えは「うつ」と診断され、薬を処方された。よくならなかった。
 長女らがインターネットで調べて症状を照らし合わせ、思いあたったのが「認知症」。専門病院を探して連れて行き、やっと診断名が付いた。様子がおかしいと気づきながら診断されず、病院を渡り歩く。その間に治療の機会を逃して症状が進行する。こうした「認知症難民」の背景には、専門医の不足や診断技術の不十分さがある。
 今春、専門医や地域の意思がまとめた調査報告書では、認知症治療を専門医で受けている患者の6割は、診断以前に複数の医療機関を受診していた。
 家族でも気づきにくく、本人にも自覚がない。高齢者夫婦の家庭となれば、地域の「気づき」が大切になる。
 「80歳過ぎで2人暮らし。大丈夫かしら」。東京都帰宅の地域包括支援センター清水坂あじさい荘」は、住民から寄せられるこんな通報から「認認介護」をみつける。「ご近所情報から患者をみつけ、介護や医療につなげる必要がある」と小川久美子・センター長。
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