「在宅支援」ではなく「在宅医療をどうするか?」 

 順に書くのはやめる。
 大頭先生は姫路から来られた。国立姫路病院の心臓外科部長だったそうだ。23年前に開業してビル診をしておられる。
 在宅に興味を持ったのは、肺癌がなおらないからだと言われた。難治癌は肺、膵臓、肝臓、食道などあるが、抗癌剤で効くものができてきた。副作用の少ないものがあるそうだ。先生は昼はクリニックで診療しておられる。ナースが7人いて、外へ訪問看護に出ていかれる。夜は在宅の人を診られて、中には癌の人もおられる。日曜日は経営しているグループホ−ムに行って、遊ぶのだそうだ。
 訪問に行けるナースが7人もいるのは多いが、あとで聞くと、ナースが集まらないのではなく「夜も行ける人には給料を多くすることだ」と言われた。7人もいれば急に電話で訪問を依頼されても、誰かが行ける。人材確保のために給料を多くする、それができたら問題はないということだ。
 今日のテーマは「在宅療養をどうするか?」というのが正しい。「在宅支援」ということばには「本人」が入っていないからだ。

0.「生を全うすること」
 昔に比べると平均寿命が伸びた。自民党が「介護保険は日本の美風を壊す」と言うが、それは時代背景が違う。
 昔は60歳で引退すると、62歳で死亡、妻も61.5歳で死亡。年をとっての療養はなかった。寝込む人がいなかった。「墓に布団は着せられぬ」とか「孝行したいときに親はなし」であった。
 今は「親孝行したくないのに親がいる」時代だ。(川柳かい?皆が笑う。まぁ、先生の話には拍手あり、笑いあり...であった)

1.多くの人がのぞむ「在宅」
 アンケートをとっても「自宅でさいごを過ごしたい」人が多い。(60〜70%)
 しかし「実現可能だ」と思っている人との差がある。
 実際には17%の人が自宅で死を迎える。
 政府は言葉を変えて「居宅」という言葉で「自宅ではなく施設でもOK」ということにした。

2.何が在宅を困難にしているか
 癌患者は増える。なおらない療養者も増える。在宅療養希望者も増える。
 急性期病院から出なければならない。「療養場所のない患者」が増える。
 介護力が増えない。理由は「核家族」「家族の乖離」「独居」
 昔は「子供は親の背中を見て育つ」と言った。今は見てくれない。親は一生懸命働き、子供を育て、子はナースになった。親が病気になっても子供がみてくれない。専門家になっているのなら、自分が必要とされているところに行くものなのに、どうする? 百姓は「自分の娘は農家には嫁にやらん」と言って苦労させないように大事に大事に育てて、このありさま。とにかく、介護力が弱くなったなぁ。
 看護師学校に教えに行く。「今までに人の死を見たか?」と訊くと、ゼロ。それが老人病院のナースになっていく。「弟妹をおぶってあやしたか?」と訊くと、ゼロ。それが小児科のナースになっていく。
 昔と違うんだ。人の死には、学校を休ませてもつぶさに見せることだ。夜中でも起こして立ちあわせることだ。
 また病院でも、手術して回診のとき「はい、家族の人、出てください」これはあかん。付き添いの奥さんにいてもらって「夕べは大変だったんです」という訴えを聞くことが大事。
 「病院では携帯電話、だめ」って嘘ですよ。ICU?「点滴している機械に影響する」って?金網をかぶせればいい。いまどき携帯電話は絶対要るよ。動けない患者でしょう?連絡は電話しかない。「ペースメーカー」? 実験したら23cm離れたらOKでした。「だめ」なんてよう、そんなこと言うとるなぁ。それで「患者さま、患者さま」言うて...(ここで拍手!おこる。難しい理論よりおもしろくてためになる話。)「様」つけて呼ぶのは、デパート、銀行、病院。
 あ〜あとあかんのは「2世、3世議員」 2世、3世が巾きかすのは、芸能人、政治家、医者。あほな話です。去年成立した法律のなかで最悪は「障害者自立支援法」 「親が議員をやめたらその後10年間、その子供は議員になれない」法律を作るべきだ。10年たっても光っているなら本物だ。
 もう一つ、これはノルウェーの良いところ。「議員ジェンダー法」といって「男、女、どちらでも55%を超えてはいけない」というもの。日本でも国会議員の半分が女性になったら変わるよ。中にはけったいな人もいるやろうけど...(で、また大笑い。雑談の中に真実がある?私も先生の専門の医学的話よりも雑談ばかりに反応しているみたいだ)

3.逃げたい病気・・・癌と認知症
 流れ・・・急性期病院・・・回復期病院・・・療養病院・・・老健・・・特養
 そのどれからも、在宅に帰る人と、次の病院に移る人がいる。
 この流れでいけるのは、脳卒中でリハビリして家に帰る、とかホームに移る人。
 この流れでいけないのは、癌の人と認知症の人。
 癌の人は、みつかる・・手術・・再発 ・・超高度な医療が必要になる。ガンマーナイフ(放射線)で治療するとなると、兵庫県では3〜4箇所しかありません。
 認知症の人もあとになると、だんだん手がかかるようになり、家ではみられない。ご飯も食べさせ、お風呂も二人がかりになる。これは少人数の手厚い看護のグループホームが良い。なにより「ゆったりと時が流れる」のが良い。(グループホームの画像も見せてもらった。おもしろかったのは「荷物係のおばあちゃん」といって車椅子に乗ってあげる人と、それを押すおばあちゃんが「カップルで動く」と表現されていること。お互いが仕事を持っているわけだ。それと「園芸ですが、ばあちゃんたちは植えた物も抜きますから職員の助けが必要です」という説明。うちのばあちゃんも「これ、花やで。引いたらあかんよ」言うと「はい」言うて抜く。「これ、らっきょうやで」言うと「はい」と抜くもんな。あはは〜。)グループホームは「自宅」ではないが「在宅」の良さを持っている。
 「ぼけてもいいじゃない」と言える社会が良い。30年前は座敷牢だった。
 (あとの質問で「どんなグループホームが良いか?見分けかたは?」というのに対して、先生は「ちゃんと医療とつながっていることと、ゆったりとした時間が流れているか?」だと言われた。

4.私のクリニックでは
 医師は私一人。ナースは常勤が4人、非常勤が3人。専任ケアマネが4人、事務スタッフ。
 昔、看護婦さん、今は男性もいて、看護師さんと言うのだが婦長さんを「ふっちょさん」と呼ぶぐらいの関係がいいなぁ。