被災障害者の今(下)行政を縛る“公平”の建前

  産経新聞 2011.8.21 20:32 市民福祉情報・オフィス・ハスカップより
 「やっと、気兼ねせずに暮らせる場所に落ち着きました」。2人の弟に知的障害がある宮城県石巻市の会社員の女性(42)は、地元の社会福祉法人石巻祥心会」が建設した障害者向けの「福祉仮設住宅」に入居でき、胸をなで下ろした。安堵(あんど)の表情は、行政が手がける福祉仮設住宅がわずかしかない厳しい状況の裏返しでもある。
 女性は津波で自宅が流され、父親が死亡、母親は行方不明に。しばらく親族宅に身を寄せていたが、弟は身の回りのことが十分にできず、両親がいなくなったショックもあり、親族に気を使う日々だった。
 石巻祥心会は、日本財団(東京)から約1億7千万円の資金援助を受け、津波で壊滅的な被害を受けた沿岸部に近い場所に、障害者とその家族40世帯が入居できるケア付きの仮設住宅と、単身の14人が入るグループホームを建設。6月末から入居が始まり、待ちわびていた人たちで部屋はすべて埋まった。
 管理者の鈴木徳和さん(36)は「ほかの人に迷惑をかけたくないと避難所を去る障害者と家族は多く、できるだけ早く安心できる環境を設けたかった」と話した。
福祉仮設住宅は出入り口の段差をなくし、浴室に緊急ブザーを付けるなど、障害者、高齢者に配慮されている。グループホームのような共同住宅で、入居は抽選ではなく福祉事務所などが申込者の健康状況をみて判断する。
 厚生労働省によると阪神大震災では神戸市や芦屋市などで1885戸が建設され、障害者の生活再建に一定の役割を果たした。
 ところが、東日本大震災では、一般の仮設住宅に比べて整備は立ち遅れている。厚労省は4月15日、福祉仮設住宅の建設を進めるよう、被災3県などに求めたが、岩手県では7月上旬に、宮城県でも8月上旬にやっと完成し、入居が始まったばかりだ。
 岩手県県土整備部の担当者は「厚労省の通知があるまで、福祉仮設住宅の建設は念頭になかった」と弁明するが、被災した障害者や支援団体からは「阪神大震災の教訓が全く生かされていない」という疑問の声すら上がっている。
 石巻祥心会では、地震で行き場がない障害者らを大勢受け入れており、石巻市に対し、一般の仮設住宅に障害者らが優先して入居できないか尋ねたが、「入居に優先順位を付けるのは市民の理解を得られない」との答えだった。同会では、運良く日本財団から資金援助を受けられたため、建設に踏み切ることができた。
多くの障害者は「公平な支援は大事だが、障害者と健常者にまったく同じ対応をされては生きていけない」と口々に語る。
 支援の必要性が高い障害者が優先的に入れる仮設住宅の整備が遅れている実情は、被災地での障害者支援のもろさを象徴している。「平等な支援」を建前に対応が遅れる行政に対し、目の前にいる人の支援に奔走する民間団体やボランティア。その民間の活動で徐々に障害者の生活実態が把握できるようになってきたが、多くはいまだに支援の手が及んでいない。(この連載は高瀬真由子が担当しました)
 写真は「個室が並ぶ石巻祥心会のグループホーム。入り口は車いすでも入れるよう広く、段差もない」