「シングル親子」の苦境  

  東京新聞   埼玉 2011年10月23日 
  市民福祉情報・オフィス・ハスカップより
 要介護の老親とその息子や娘が同居する世帯の苦境が、深刻になっている。子がワーキングプアで経済状態が厳しく、介護サービスを削って親の健康を害しているケースが、県内でも目立つという。親の年金が頼りの世帯が多く、介護関係者は「介護分野の支援だけでは救えない。親子共倒れの恐れもある」と心配している。 (五十住和樹)
 県西部にある訪問介護などの事業所によると、約百十件担当している世帯のほぼ一割に当たる十件が、要介護の親と収入が不安定な子の世帯という。
 一人息子(53)と暮らす母親(86)はひざを手術して、七段階の四番目に重い要介護2。週一回のヘルパーによる家事援助を受けているが、入浴介助を受けると利用料の二百六十円が四百円になるため、シャワーで済ます。
 世帯月収は、母の年金約八万円と息子のアルバイト十二万円。対人関係が苦手な息子はパートや期間従業員など職を転々とし、現在の仕事は雇用保険もないという。
 家賃は七万円で、母は介護サービス利用を控えている。配食サービスの弁当を親子で二日に分けて食べることも。介護事業所の担当者は「息子が経済的に自立しない限り、母は十分なサービスを受けられない」と話す。
 要介護3の認知症の八十代父親と暮らす四十代前半の息子。精神疾患のため荒れることがあり、ヘルパーは父の介護で暴力を受けた形跡を見つけた。介護保険では息子のケアまでできないが、週二、三回の家事援助では、こっそり二人分の食事をつくるという。
 この介護事業所は「介護保険だけでは何ともならない深刻な事例が、ここ数年増えている」と指摘。「長引く不況で、独り立ちできる仕事を得られない子が、親の足を引っ張っている」とする。
 介護分野では、独居高齢者のケアや、高齢の子が老親を介護する「老老介護」が支援の課題とされてきた。あるケアマネジャーは「要介護の親と子の同居世帯は、福祉制度の谷間に落ちている」と言っている。
介護保険制度にも問題
 認知症の親を子が介護する同居世帯では、徘徊(はいかい)などで目が離せないと子は仕事を辞めざるを得ず、経済的苦境に陥るケースも多い。介護保険が細切れのサービスしか提供しないためで、働こうと思っても親が通所介護(デイサービス)に行っている間しか時間がない。立教大の服部万里子教授(高齢者福祉)は「家族の介護を前提にした制度設計が原因。常時見守りのような連続的なサービスを、盛り込む必要がある」と指摘している。
 来年四月から二十四時間対応の訪問介護が始まるが、服部さんは「認知症の人が使えるようなサービスではない」とみている。
 服部さんは「年金や健康保険に入らず親と暮らす子も多く、親の年金頼りとなる“予備軍”だ」と言う。「親が元気なうちに子を自立させる努力が必要。家族だけでは解決できない場合も多く、自治体は支援に入るべきだ」と話している。