認知症に伴走するサービスを

  2011.10.22 07:40 [from Editor] 産経ニュース
  市民福祉情報・オフィス・ハスカップより 
 会社のレターボックスに、見覚えのある達筆の封書が入っていた。いつもと違ったのは、それがひどく薄かったことだ。だから、ピンときた。大阪府に住む読者から、夫が亡くなったことを知らせる手紙だった。
 女性の夫は認知症だった。最初に手紙をもらったのは1年半前。女性は家で夫を介護していた。雨の日に徘徊(はいかい)する夫を捜し回り、失禁の後始末で寝る間もない。やっと、特別養護老人ホーム(特養)へ入所が決まりかけたころ、夫ががんだと分かった。
 ところが、病院で「徘徊する人は困る」と手術を断られ、やっと受け入れてくれた別の病院では、個室の利用を求められた。退院すると、今度は特養が受け入れを渋った。がんのうえ、尿道カテーテルをつけていたためだ。
 認知症が重度だったり、加えて医療が必要だったりで、病院や施設に入れないという話は珍しくない。先日は、施設から妻の短期入所(数日の預かり)を断られた男性の話を聞いた。アルツハイマー認知症の妻が、他の入所者ともめたのが原因らしい。男性は「アルツハイマーなんて、特殊な病気じゃない。むしろ、そのための介護保険みたいなものなのに、サービスが使えないなら、何のための介護保険だよ」と、おさまらない様子だった。
もちろん、努力して受け入れる施設もある。しかし、施設側も「そういう人ばかりになると、手が回らない。受け入れには限界がある」と打ち明ける。
 行き場がなく、精神科に長期入院する認知症の人も増えている。その精神科の病院でも「退院できる状態になっても、家族も施設も引き受け手がない」と言う。
 解決の糸口はある。千葉県にある精神科の病院「海上寮療養所」の上野秀樹副院長は、在宅はもちろん、特養の入所者や、精神科のない一般病院の入院患者にも訪問診療をする。認知症の人が格段に穏やかになって家で介護できるようになったり、病院では「患者を断ったり、拘束したりせずに済むようになった」と喜んでいた。こうした取り組みが広がれば、施設や家で暮らし、普通に入退院することもできるようになるはずだ。
 来年度は診療報酬と介護報酬が6年ぶりに同時改定を迎える。医療と介護の接点がきしむ認知症の人の処遇を整える絶好の機会だが、伴走するサービス像は見えない。冒頭の女性は手紙で「明日はわが身です」とつづっていた。(文化部編集委員 佐藤好美)