「在宅介護に見る家族という関係の困難と希望」

 講演者の春日キスヨさんは、もうずっと前の朝日新聞の家庭面で知った。お母さんが入所しているホームに面会に行くと、キスヨさんの顔は忘れているのに、キスヨさんの夫の顔は覚えている。それはなぜか?「娘よ」と名乗ると、お母さんの頭の中には、幼き日のキスヨさんが浮かび上がるのではないか。目の前の、大人のキスヨさんが自分の娘だとは納得しがたい。それに比べて、娘むこは大人になってから目の前に現れたので、その当時の顔と、目の前にいる現在の顔にそんなに差はない。(現実には、20代と50代では、かなりの差があるかも知れないが、幼児と50代よりはましだろう) 
 もう一つの話は、娘の顔のわからないお母さんに、介護スタッフが「面会よ。この人は誰?」などと訊いてはいけない。記憶を試してはいけない。混乱するばかりだ。「娘さんのキスヨさんが来たよ」と初めから言ってあげるのがよい、という。これは私も「ふむふむ」と思ったので、以後、ばあちゃんには「姪のひさちゃんが来たよ」とか言って、先に紹介するようにしていた。
 さて、今回の講演は「単独世帯」について。
 「今年の8月に各新聞が『単独世帯が総世帯中に占める割合が、2010年に3割を超え、夫婦と子供からなる核家族世帯よりも多くなる。2025年には34.5%に至り、高齢者のひとり暮らしと高齢者夫婦だけの世帯は20%を超える』という人口問題研究所の推計を報道した。
 つまり、高齢の『親』を『嫁』や『娘』がみる時代ではなくなってくるのだ。
 社会学山田昌弘さんは『地方と都市部では様相が異なる』と言われるそうだ。地方では子供が独立し、残された老夫婦がいずれかの死別で独居化する。都市部では、親に寄生して暮らしてきたパラサイトシングルが親と死別し、ついに独りになるケースが増える。」
 ここで、パラサイトシングルなどという嫌な響の言葉を聞こうとは思わなかった。春日さんの話は奥深いので、省略する。この衝撃の事実だけを載せておく。