黒田裕子さんのインタビュー

11月25日(土)朝日新聞 新防災力「あすに備える」
 NPO法人阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」理事長 黒田裕子さん
  くろだひろこ NPO法人「しみん基金・KOBE」理事長。「日本ホスピス・在宅ケア研究会」副理事長。04年度の朝日社会福祉賞を受賞。
 災害が起きた時、自分の命を守るためには日頃からどのような準備をしておけばよいのか。お年寄りや慢性疾患を抱える人のためには特別な対応も必要だ。このシリーズの最終回は、家庭で出来る防災の知恵について、阪神大震災の被災地で高齢者や障害者の支援に取り組んできた看護師の黒田裕子さんに聴いた。(編集委員・野呂雅之)
ーー災害時、慢性疾患のある人たちの避難行動について新たな提言をしていますね。
三重県で水害が起きたとき、持病のあった人が心臓発作を起こしたのですが、家が流されて服用していた薬もなくなってしまった。この時はすぐに手当てができて助かったのですが、心臓病や高血圧、糖尿病など慢性疾患のある人は自分の身は自分で守るために、薬を常時持っていることが重要だと気づいたのです。自分にとって一番大事な薬は、3日分というと大変なので、3回分だけでもいいので必ず身につける。普段着ている副はもちろんですが、寝間着にもポケットをつけて、その中に薬を入れておく。そうすれば、災害が起きてとっさに飛び出しても、当面の対応はできます」
「水害の救援活動でもう一つ体験したのは、胃がんの手術をして退院したばかりの人がいて、まだ普通のご飯を食べていなかった。避難所に行くと、おにぎりや乾パン、お菓子しかない。その方は七分がゆを食べていたので、そんな固いものは食べられない。おかゆは重たいので1回分だけでいいので袋に入れて用意し、あとは衛生ボーロやビスケットを非常時に備えて置いておく。在宅治療のため今はどんどん退院させるようになっているので、病院は災害時の退院指導をしておかないといけません」
ーー災害時の隊員指導とは具体的にどういうことですか。
「在宅で酸素吸入をしている人の場合、携帯用のストックは持っているけれど、災害時には携帯用の酸素も1本しか持参できない。在宅酸素をしている人は登録されているから、業者がすべて把握しています。しかし、業者が避難場所に顧客の患者さんがいるかどうかを確認使用としても、『個人情報保護法の問題があるから言えません』といわれたら、もう命は助からない。だから、いったん落ち着いたら、自分から業者に避難場所を知らせなさい、と。災害でせっかく助かった命を、避難してから失うことになりかねない。そうした指導が最も大事なことだと思います」
ーー「地域のアセスメント」も重要だと指摘されていますが、どういう意味ですか。
「例えば、心臓病の人が退院して暮らしていた地域に帰る場合、いざというときに誰が助けに来るのかを考える。まず家庭のアセスメントをすると、老老介護だったら災害時には助けることができない。それならば、保健師さんや民生委員、社会福祉協議会の人に退院を知らせておく。地域で活動しているボランティアにも伝える。その地域の誰が助けることができるのか、どういう支援態勢があるのかを調べたうえで、その人の支援を複層的にできるような仕組みを平常時からつくっておく。それが地域のアセスメントで、地域で誰が助けるのかということも退院指導の中に組み込んでほしい」
ーー仮設住宅で高齢者らを支えてきた経験から「コンビニ福祉」をつくりたいそうですね。
「寄り合い所帯の仮設住宅でコミュニティーをつくるために、ふれあい喫茶を開きました。人の集う場を提供すれば、会話が生まれて、支え合う仕組みができる。あそこに行けば情報があって、温かみがあって、人と会話ができてほっとできる。また行こうと思うから、お年寄りが健脚になる。ふれあい喫茶を中心に、コンビニのように地域のあちこちに福祉の拠点をつくると、互いに支え合って見守ることもできます。あしたもがんばろう、生きていこうという力にもなります」
「地域の小学校と連携することも重要です。お年寄りが授業で昔の遊びを教え、子どもたちは下校途中に『ここがデイサービスなんだ』といって立ち寄る。人と人をつなぎあわせ、相手を支援するということは何なのかを学んでもらう。私たちは仮設住宅のころから、そうやって地域を活性化させてきました。地域を支えるのは、そこで暮らす人々にほかなりません。暮らしに視点を置いてこその防災なのです」