ばあちゃんのきもの

 箪笥から出してみた。高価な物はないと思う。着ていたことを私が覚えているものは少ない。着物では仕事にならんもんなぁ。まだ袖を通してない物もある。姉さんに縫ってもらったのだろう。
 引き出しにはじいちゃんの物まであった。
 うちは引っ越しがないから、物を捨てないのか?でも、昭和47年に家を新築している。
 古い家はかやぶきで、そのときに古い家具は処分したらしい。押し知れには「借金の証文ばっかりやった。先祖が大酒のみやから、田んぼは借金のかたに取られて、家と屋敷しかなかった。腹がたつから、証文は全部燃やした」とばあちゃんが言っていた。ついでに「姉さんのときは実家が金持ちやったから、姉さんは村長さんの息子にお嫁に行って、わしのときは没落して貧乏やったから、こんな家と屋敷しかない家に来た」と付け加えた。
 そのあと、隣の人に「重要な書付はなかったんかい?」と訊かれ「知らん。読めへん」と言うと「ばあちゃんは読めへんでも、しかるべき人に見せたら読んでくれるやろう」と言われていた。ばあちゃんは「先祖が酒飲みやった」ことが許せなかったのだろう。