「激怒」

 メールをくださった方はこの介護を傍聴して「発言を聞いて何回、激怒したか知れません」と書いておられる。
 その発言者の池田省三委員(龍谷大学教授)の部分を引用する。太字はメールの主が「ここだけ。後は略」として送ってくださった部分。

池田委員 貴重な時間なのですけれども、若干、私の資料の説明と意見を申し上げたいと思い
ます。
 参考資料1ということで配られております。右下に番号が振ってございます。
 まず、1番目の資料ですけれども、これは一昨年4月から、公表されている直近の平成21年8月までの認定率の推移を見たものでございます。
 平成21年4月から認定システムの改定に疑義が出されて、経過措置というものがとられたわけですが、その結果どうなったのか。見ていただくとわかりますように、要支援2が減少して、要介護1が増えております。更に、要介護3が減って、要介護4と5が増えています。簡単に言うと、経過措置によって、それぞれの要介護度がいわゆる「蹴り上げ」が行われているということです。利用する人から見れば、利用の幅が広がるわけですから、結構なことかもしれませんけれども、公正な認定業務という観点から見て、私は疑問が残ると思います。
 資料2は、今度は介護保険施行時からの認定率の推移というものを見ております。
 比較しやすいように、軽度、中度、重度と3つにまとめております。まず軽度を見ていただきますと、認定者の伸びが目立っております。施行5年から6年でほぼ倍増していますが、これは介護保険が定着して利用が広がったことを意味しているわけであって、別に要支援や要介護1レベルの人が増えたわけではありません。
 これに対して、中度と重度は微増からほぼ横ばいという形をとっております。若干増加しているのは、高齢人口に占める後期高齢者の割合が増えているために認定者も増加するということで、いわば自然増だということです。
 ところが、平成18年から19年にかけて非常に奇妙な現象が起きております。軽度が減少して、その分だけ中度が増加しているのです。この原因は何でしょう。平成18年4月に要介護度の再編成が行われました。要介護1レベルの人について、要支援1、2の割り振りなどの見直しが行われたわけです。このグラフではわかりませんけれども、確かに要介護1は減少して、要支援レベルは増えている。ところが、要介護2と3も増えております。つまり、軽度と中度は振り替えになっているということです。要介護1と2レベルの人たちの要介護度が押し上げられている。
 これも奇妙な現象なのです。なぜならば、要介護1以下については、いわば要介護度の再編成が行われたわけでありますから、影響が出るのは当たり前。しかも、要介護1は下がる方向にあったわけです。だから、要介護2以上が増える要因など何もないはずなのです。これは何故でしょうか。
 この2つのグラフから考えられることは、恣意的な認定が行われているという疑問が強く感じられるということです。公正な認定業務が担保されているのか。そこを検討しなければ本質的な論議にはならないのではないかということです。例えば、今回も前回と比べて認定の割合がこうなったという議論がありますけれども、グラフ2からいえば、一体どこと比較するのですか。つまり、かなり恣意的に行われた結果、認定の度合いが蹴り上げられたところと比較するというのは、はっきり言って正当ではありません。公正ではない。そこの論議がされていないということです。
 更に、3を見ていただきたいと思います。
 これは、厚労省が毎年公表しております介護給付費実態調査年報の中の、1年間継続して介護サービスを受けた人の要介護度の変化を見たものです。平成20年4月から21年3月まで1年間、引き続きサービスを利用した人は、軽度にあっては2割強が悪化していますが、重度でも1割前後の人が改善されている。
 これはこれで興味深いデータなのですが、それはさておき、次の資料4を見ていただきたいと思います。
 これは、要介護度が悪化した人の割合の推移を見たものです。まず、平成15年4月から平成16年3月までで、要介護1から3の悪化率が急に上昇していることがおわかりになると思います。
実は、これは平成15年4月から新しい認定システムに変わりまして、認知症の度合いを認定に反映させたためです。つまり、認知症自立度III以上の方たちの要介護度が引き上げられたということで、別にこれは怪しむべき変化ではありません。そこから悪化度は下がっていきます。利用者の状態が改善の方向に向かっているということですから、これは喜ばしいことであって、サービス事業者の努力のたまものとしても評価したい変化です。
 ところが、平成17年から18年にかけて、これが逆転します。つまり、すべての要介護度において悪化率が急上昇しているのです。平成17年度中に、高齢者の要介護度が進むような何かが起きたのでしょうか。少なくとも私は何も思い付きません。
 しかし、1つだけ考えられることがあります。それは介護報酬の改定です。介護報酬が引き下げられた。つまり、介護報酬による事業者の収入は減少しました。勿論、ホテルコストなど、自己負担に振り替えられた部分が大きいわけですから、介護報酬減額分がすべて収入の減少になったわけではありません。しかし、介護報酬の引き下げを取り戻すための最も手っ取り早い方法は何でしょうか。利用者の要介護度を上げることです。介護報酬は、基本的に要介護度が上がるほど報酬も上がるからです。これも、公正な認定業務が担保されているかという観点から、精査すべきことではないでしょうか。このことを私はやるべきだったと思います。
 次に、サービスの利用はどうなっているのだろうかということで、資料5でございます。
 前回の会議で、サービスを利用したいから認定を申請するのだという御意見がありましたが、
そうではないのです。例えば要支援1の認定者のうち、40%はサービスを利用しておりません。
要支援1から要介護1までの軽度全体を見ても、全体で3割程度がサービスを利用しておりません。
 なぜ利用していないのか。その理由を見たものが、次の資料6です。
 これは、国民生活基礎調査によるデータでありますけれども、見ていただくとわかりますように、軽度にあっては、本人が何とかやっていける、家族で何とかやっていけるが主な理由です。重度にあっては、不詳・その他が7割を超えておりますが、これは国民生活基礎調査の設計が悪いのです。実際は、病院に入院しているのです。だから、介護保険が使えないというのがほとんどです。 私は、幾つかの自治体の協力を得て、重度の未利用者の調査をしていただいたことがあるのですが、どこでも同じです。入院か、もしくは死亡しているにもかかわらず、第1号被保険者から削除されていないケースです。つまり、重度の場合は、医療か介護は別にして、ほぼサービス利用はきちんとなされております。 資料7は、47都道府県別に見た認定率のグラフでございます。
 地域差が極めて大きいことがおわかりになると思います。
 更に、資料8は、年齢階層別に見た認定率のグラフです。
 加齢とともに要介護のリスクが高まっていく。特に、後期高齢者は前期高齢者の6倍以上の認定率になります。
 資料9は、そういった年齢による要介護者の発現率の違いを勘案して、高齢人口を5歳刻みで分析いたしまして、全国平均を100とした指数に置きかえて比較してみたものでございます。
 縦軸は、要介護3から5、つまり重度の認定率を年齢補正したものです。上に行けば行くほど指数が小さくなりますので、重度認定者数の少ない地域、つまり元気老人地域です。佐賀県香川県、宮崎県の順番で元気です。逆に、下に行けば行くほど指数は大きくなりますから、重度認定者が多い。つまり、表現がちょっと問題ですけれども、寝たきり高齢者地域です。
 重度にあっては、「隠れ寝たきり」がいないわけではありませんけれども、ほぼ認定を受けていると推定できますので、これで地域の高齢者元気度が測定できます。勿論、市町村ごとにもできますし、我々はすべての市町村について元気度の地図もつくっております。極めて地域差が大きい。35ポイントも開きがあります。
 横軸は、要支援1から要介護2まで、軽度認定者の利用率です。同様に年齢補正をしております。認定率ではなくて利用率だというのは、軽度の場合、認定を受けていない人が相当います。だから、軽度の発現率と読むわけにはいかない。サービスの利用意向と読んでいいと思います。右に行けば行くほど利用率が高い。つまり、軽度の人が積極的にサービスを利用している地域で、大阪府がトップ、逆に山梨県が最も利用意向が低いということになります。これは、地域格差が更に大きい。66ポイントも開いております。
 次に、資料10を見ていただきます。
 在宅サービスを利用している人は、どんなサービスを利用しているのか。全体で見ますと、半分の利用者は1種類のサービスしか利用しておりません。その中身については、これはある自治体のデータしかございませんけれども、訪問介護通所介護、それからなぜか居宅療養管理がベスト3で、これに福祉用具が続きます。軽度はそれでもいいかもしれませんけれども、要介護3から5の重度にあっても、55%が2種類以下のサービス利用です。
 重度であれば、訪問介護福祉用具利用は当たり前でしょう。家族にとって短期入所は必須でしょう。訪問看護が必要なケースも多いし、通所系サービスだって使いたいというのは当たり前です。つまり、2種類以下におさまるはずがない。にもかかわらず、このデータはそうなっていないことを示しています。これで重度の在宅生活を支えられるはずがない。だから、施設志向、しかも4人部屋でもいいから建てろという、高齢者の尊厳を無視したような論議がまかり通っている。そこに原因があります。
 資料11は、前回、厚労省から出していただいた資料を私が加工したものでございます。
 未利用者と区分支給限度額を追加してあります。前回も申し上げましたが、要介護度に対応したサービス提供が行われていないことが明白です。特に要介護3から5のケアプランは、全く標準化されておりません。再度申し上げます。こんなサービスで在宅生活を支えられるのでしょうか。
 しかし、努力している自治体も事業者も存在するのです。資料12を見ていただきます。これは、ある自治体とある事業者のデータです。
 いずれもケアマネジャー教育、在宅生活を支える適切なサービス提供に努力して、私が信頼している自治体であり、私が信頼している事業者です。特に、要介護3から5でまとまりを見せ始めていることがおわかりいただけます。こういう努力を私はもっと評価すべきではないかと思います。
 資料13は、介護保険最大の課題である認知症です。
 このグラフは、要介護度と認知症自立度のマトリックスでございます。私は、この会議で認知症の課題が強調されてきたことを高く評価しております。しかし、介護保険における認知症ケア開発の努力は不十分ですし、極めて遅れております。そのルサンチマンをこの会議でぶつけることは、私は十分に理解できます。しかし、論議に的外れな部分があったことは否めません。それは、要支援や非該当の問題を、あたかも認知症切り捨てとまで言わんばかりの論議があったことです。そこに問題があるわけではありません。要介護3から5の重度にこそ問題がある。
 改めて資料13のグラフを見てください。
 要支援1と2は、半数以上正常、つまり認知症自立度で言えば自立です。残りもほとんどが認知症自立度Iですから、基本的に認知症ケアの課題はありません。要介護1と2にあっても、認知症自立度II以下ですから、これはケアというよりも、家族・社会の適切な対応があれば、在宅生活を続けることはさほど困難なことではありません。しかし、要介護3以上になりますと、グラフの赤系の部分でございますが、手のかかる認知症自立度III以上が増加しています。
 つまり、認知症ケアを本気になって考えるならば、ここに焦点を当てて、その解決を考えなければならないということであります。その論議が余りにも私は欠けていたのではないかという危惧を持っております。
 資料14から16までは、参考までに介護保障制度の国際比較を付けておきました。
 14で見られるように、介護に社会的費用を最も注ぎ込んでいるのは北欧でございますが、これに次いで大きいのは日本です。しかも、2025年には、ほぼ北欧に匹敵にする財源を注ぎ込むことになります。
 15は、在宅サービスの支給限度額の比較ですが、日本はドイツ、フランス、韓国の2倍から3倍の給付を保障している。更に、要支援、要介護1という軽度に給付している唯一の国であります。
 16は、施設給付の比較でございます。ほかの国は、基本的に施設における介護費用の一部を補助するという部分給付が多いのですが、日本は完全給付であります。
 簡単にいえば、日本の介護保険は極めてぜいたくにつくられております。しかし、残念ながらサービスの内容は貧しい。それが日本の介護保険の特徴だと、私は思っております。
 最後に、簡単に私の意見をまとめました。17ページです。
 1つは、認定業務が正確、公正に行われなければならないこと。これは、皆さんから御異論はないと思います。
 2つ目は、認知症、中重度認定者への適切なサービス、つまり地域包括ケアということになると思いますが、その構築を急がなければならないということであります。
 そして最後に、これはだれも言わないし、言えば嫌われるに決まっていることです。しかし、もうそろそろ検討しなければならないこと。それは、要支援は保険給付になじむのかということです。要支援レベルの高齢者は、高齢人口の8%以上は存在しております。実際の認定率は4%強です。しかも認定されている人の半分近くは、サービスを利用しておりません。要支援レベルで見れば、3分の2以上の人たちはサービスを必要としていないということです。
 勿論、自立であっても、生活援助サービスが必要な方たちもおります。しかし、その場合、自立は使えません。なぜならば、介護保険の保険事故に該当しないからです。要支援、特定高齢者、自立だが、生活介入が必要な高齢者については、基本的に社会福祉で対応するのが本来の姿であります。介護保険の適用にはなじまない。勿論、そのために高齢者福祉予算を自治体に保障することが条件になりますけれども、介護保険を御都合主義的に利用するというのは、もうそろそろ考え直した方がいいのではないでしょうか。つまり、この認定検証・検討委員会で軽度の問題がこのような形で議論されたことについては、私は非常に疑問を持っております。時間をとって大変申しわけございません。以上