「どうしたらいい?」アルツハイマー病の対処法・岸川先生のつづき

アルツハイマー病になったせいか 平気でうそをつくし 作り話はするし 性格がかわってしまった。
 私もつい腹が立って怒ってしまう。どうしたらいい?

*ーお母さん、薬飲みました?
 飲んだわよ。
 −まだここに置いてあるじゃない。また飲み忘れたのね。
 それは夜飲む分よ。だってさっき飲んだんだから。
 −ウソ。いつも薬飲むときの湯のみがないじゃない。
 ああ。さっきはちょっと湯のみ探すの面倒くさかったんから、水なしで飲んじゃったのよ。飲みにくかったわ。やっぱりちゃんと水で飲まないとね。
 −お母さん、水なしで薬なんて飲んだことないじゃない。
 そんなことないわよ。時々面倒くさいから水なしで飲んじゃうわよ。見つかるとあなたに怒られるから見つからないようにしてるのよ。ごめんなさいね。
 −お母さん、何でそんなウソつくの。忘れたなら忘れたって言ってよ!そんな、平気な顔してウソなんかつかないでよ!
 ウソなんてついてないわよ!飲んだから飲んだって言ってるのよ!何でそんなひどいこと言うの。いやな人だね。ほんとに!
《最悪のパターンですね》

*「取り繕い」、「作話」
 自分のしたことやしなかったことを忘れている。
 忘れたことも忘れている。
 聞かれたことを理解して説明する能力は残っている。
 一番思い出しやすい記憶が引き出されてきて、自分の行動を自分なりに説明する。
(この例の場合、おそらくお母さんは若い頃から水なしで薬を飲む週間があったと思われます)
《良識はあるのです。統合失調症の人に症状をきちっと説明すると、本人はきちっと理解されます。アルツハイマー病の初期の人にも、説明すると理解されます。しかし、本人は辛くなります。自分がどうなるか、わかるからです。安楽死を選ばれることもあります》

*ーお母さん、薬飲んだ?
 飲んだわよ。
 −あ、そう?あれ、じゃ、これなにかな、この薬。
 え?なに?ああ、それ?・・それは夜飲む分よ。
 −え?お母さん、いつもちゃんと、その時飲む薬、自分でテーブルに置くようにしてたんじゃなかったっけ?これ・・ちがう?
 あら、そうかしら?変ね、間違えたかしら?
 −お母さん、薬は間違えないよね。いつもちゃんと飲んでるじゃない。
 そうね。
 −だから、多分、これ、今飲む薬なんじゃない・・飲んどいたら?お水持ってきてあげるし・・
 ああ、ありがとう。
 −お母さん、最近けっこう勘違い増えたね。気をつけないとね。
 そうね・・ぼけたかしら・・・
《理想的パターンですね。僕と母の場合でした。母は亡くなりました》{プッ!自分で「理想的」なんて言うお医者さん、初めてだ!自画自賛!かわいいかも?}{おっと、こんなこと、書いて、お医者さんに恨まれるかも?ただし、気が合わない人には書きませんから、先生、我々、辛口介護者に気にいられたんですよ!}

*本人も不確かな感覚は持っている場合が多いので、その不確かさを共有する。
 通常は正しい記憶を思い出させることは難しいので、あきらめる。(覚えさせよう、障害をくいとめようと無理しない)
 実をとる。(この場合は薬を飲んでもらうこと)
 物忘れかもしれない事を少し確認させる。《「忘れたんじゃない?」と反復して言うと「自分は忘れるかもしれない」と本人が思う》
 できるだけ「嫌な人」にはならない。《事実は記憶しなくても、感情の記憶は残るので、いやな人が来るとすっと逃げる。わかっているのです》

誰でも腹が立ちますし、悲しくなります 落ち着いたところで「この人にはまだ取り繕いや作話の能力が残っているのだ」と言い聞かせましょう。少しは気持ちが楽になるかもしれません。
 でも、私だって腹も立つ!と自分を慰めましょう。
 誰かに愚痴りましょう。《ですから、家族会が必要なのです。なぐさめあう、ピアカウンセリングです》
 可能なら、同じ状況にならないような工夫をしましょう。(この例の場合は、薬は日付ごとに分けて日にちを書いておき、一緒に日付を確認しながら飲んでもらうようにする)